「40人学級復活提案」の裏側にあるもの 「財政難を理由に、教育切り詰め」は本当か

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しかも、ここで「35人学級」と言っているのは、全国画一的な標準としての35人学級であって、国の標準を40人に戻しても、各都道府県の独自の取り組みによって35人学級を維持することは当然可能なのである。そもそも国が40人学級としていた2010年度まででも、35人学級を既に実現していた都道府県があったのだ。地方自治体任せにすると財源が乏しい自治体は少人数学級をやめると懸念するなら、税収格差を別途ならす方法だってある。しかも、少人数学級でなくティームティーチングや少人数指導といった方法でも、教育効果を高められることも忘れてはならない。

求められる、幼児・初中等教育のグランドデザイン

35人学級導入をめぐる議論にも関わってきた者として、35人学級は小学校1年どまりなのかさらに上の学年まで適用拡大するのか、目下グランドデザインがないのはいかがなものか(ちなみに、この私見をある機会に下村文部科学大臣がおられる前で直接申し上げたこともある)。

ちなみに、幼児教育無償化を実現すべく、35人学級をやめて財源を浮かせるというのは、ケチだとか意地悪だという意見がある。確かに、私見を言えば、高齢者向けの社会保障給付を抑制して財源を確保してそれを学校教育のために充てることは、望ましいと考える。

ならば、学校教育関係者は、「文教予算確保のために高齢者向けの社会保障給付を削減せよ」と主張して下さるのだろうか(あまりそうではないような気がする)。むしろ、政治の現場では、各選挙区で政治家に対し、投票率の高い高齢者からの「高齢者向けの社会保障給付こそ手厚くしてほしい」という声が支配的で、若年世代の投票率が低いこともあって、子どものためにもっと多く予算を投じろという声は小さい。

政治力学がそうであっても、学校教育への予算を増やせないのは、財務省の怠慢だというのは、批判の矛先が間違っている。社会保障予算と文教予算をまたいだ予算のメリハリ付けは、省庁縦割りの枠から出にくい官僚に訴えるのではなく、それを超越できる政治家に訴えるべきものである。それが民主主義である。

今般の議論は、財政制約を踏まえた上で幼児・初中等教育のグランドデザインをどう描くかが核心である。今問われているのは、財政制度等審議会の40人学級復活という提言がおかしい、という話ではなく、35人学級を公立小学校1年生にとどめたままにするのか、幼児教育無償化を推進するのか、また別の案か、どの方策が子どもの未来にとって望ましいか、である。あれもこれもではない。選択と集中で、あれかこれかをどうするかなのである。
 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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