「40人学級復活提案」の裏側にあるもの 「財政難を理由に、教育切り詰め」は本当か

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35人学級導入の効果検証については、文部科学省の公立義務教育諸学校の学級規模及び教職員配置の適正化に関する検討会議において検討され、私も委員として議論に加わった。

35人学級の議論の根底には、小中学校の児童・生徒の教育は、大人数でやるより少人数でやった方が、効果が高まるという認識がある。この認識に基づけば、1クラス40人より35人の方が、教育効果(クラスサイズ効果)が高まることが期待される。

ところが、経済学には、「クラスサイズパズル」という議論があって、この認識は自明に正しいというわけではないことが知られている。学級規模を小さくすると、児童が教師とより密に接することができるため能力が向上する半面、能力が高い子どもの努力が低下する効果(競争抑制効果)があって、学級規模を小さくしても教育効果が上がるかどうかは自明でないという。

私が委員として加わった文部科学省の検討会議でも、少人数学級がよいとの意見もあれば、それより少人数教育(ティームティーチングや少人数指導)で教育効果を上げているなど、さまざまな意見が出た。

非効率な教職員配置、少子化で教職員は過剰に

ここで、純粋に子供の教育効果だけを見て望ましい教育方法を考えている、とは言い切れない制度的な背景がある。それは、教職員定数と教職員人件費である。公立学校で少人数学級を実現しようとすると、学級担任を増やさなければならない。そのためには地方公務員である教職員の人件費を増やさなければならない。他方、少人数教育ならば、学級担任を置かなくても柔軟な教職員配置で対応できる。

確かに、子どもの未来のために少人数学級が全国画一的に有効であるなら、教職員人件費は金に糸目をつけず出せばよいのかもしれない。しかし、少子化は今しばらく続く見通しで、児童・生徒数が減れば、学級規模が今のままなら必要となる教職員数は減ることになる。今のままなら教職員は過剰となる予想である。

これを受け入れれば、いったん雇った教職員に辞めてもらったり、別の部署に転籍してもらうか、教員の新規採用をやめるかをしなければならない。教職員側はこれを受け入れられず、起死回生の策(?)として少人数学級を提案してきた、という動機だとすればどうだろうか。

現に、長年にわたり教職員人件費についても議論を続けている財政制度等審議会には、今年の議論に限らず、教職員配置が非効率であるのに、学級規模を小さくすることは、子どもの未来のためというより教職員定数を増やすのが主目的ではないかと疑問視する声も一部にある(全員一致してではないことは特記しておく)。くどいようだが、公立学校の教職員人件費は、国も負担金を出しつつ地方公務員人件費として、国民の税金によって支出されているものである。

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