産業天気図(銀行) 今期は増額修正で黒字化の可能性高いが来期以降に危機のマグマ

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今期は大手行すべてが経常・当期利益の黒字化を想定している。また1993年3月期以降、実に11期ぶりに貸倒引当金などの与信関連費用が、業務純益8一般企業の営業利益に相当)の範囲内に収まる可能性もある。
 足元では長期金利の急上昇がやや懸念材料だが、株式相場の好況が打ち消して、大手各行の有価証券含み損益は三井トラストを除いて黒字に好転している。持ち合い株式の売却を進めているが、前期末に減損処理をして株式の簿価を下げたことも幸いして、今の株価水準では売却益となる公算が大きい。売却しなくても、含み益が拡大する。これは税効果会計では繰延税金負債が増加することとなり、繰延税金資産と差し引きしたあとのネットの繰延税金資産を減少させる効果をもつ。繰延税金資産はその見合いで株主資本の剰余金を増減させるが、将来の収益を前提とした不安定な繰延税金資産に依存する分が減少するということは、資本の質の改善を意味する。損益が好転すると、過去に否認した税効果資本が一部復活してくる可能性もある。
 6月末の不良債権残高も全行で減少した。2001~02年度には過剰債務企業の金融支援が相次ぎ、現在は再建計画の最中だが、今のところ大きな乖離は少なそうだ。
 今後のリスクは、10月半ばにも発表されるりそなホールディングスの資産再査定の結果だ。りそなは中間期で1兆円前後の赤字転落となる可能性もある。金融当局は「りそなは実質債務超過だった」「金融庁の検査に瑕疵があった」との批判を気にかけるが、大手行が最も恐れるのは、「りそなと同様の基準で全大手行の資産査定をやり直すべき」との世論が高まる局面だ。現在は銀行株の上昇でこの議論は封じられているが、平均株価が下落すれば、議論が再燃する可能性もある。その分岐点は日経平均1万円と言われている。
 さらに問題は来期だ。ゼネコンや不動産、流通など、過剰供給体質が改善していない業界で、債務免除企業は信用不安から一様に苦戦を続けている。再建計画のほころびが一気に噴出する可能性もある。
 個別銀行では、三菱東京フィナンシャル・グループを皮切りに、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、住友信託が増額修正を発表した。残るUFJホールディングスがどんな修正発表をしてくるかが当面の注目点。UFJは金融庁の厳しい検査を受け、与信コストの増加が懸念されている。三井住友の期初の与信費用見込みは6500億円は大手行最大。この点もどうなるか。すでにメインの中堅ゼネコン・森本組が民事再生法を申請するなど、不良債権処理が加速し始めた。
 財務の健全な住友信託銀行は、今期中の公的資金返済に向け金融庁との折衝の行方が焦点。健全化計画の見直しで今期の与信コストを積み増した三井トラスト・ホールディングスは、再編も絡めた自己資本増強策に注目が集まる。りそなは細谷新体制での健全化計画が中間決算発表時に公表されるが、新しいビジネスモデルがどこまで示せるか。
 水面下で業界再編の動きもある。主要行同士の再・再編は現実的でないが、持株会社傘下の個別金融機関や事業分やごとのM&Aの可能性は大いにあるだろう。
【山川清弘記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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