僕らの仕事、どこまで「人工知能」が奪うのか 人工知能は、急速に賢くなっている<前編>

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松尾 豊(まつお ゆたか)●東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻 准教授。1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。2005年10月より、スタンフォード大学客員研究員。2007年10月より現職。2002年、人工知能学会論文賞、2007年、情報処理学会 長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長、第1回ウェブ学会シンポジウム代表。専門は、Webマイニング、人工知能、ビッグデータ分析。

松尾そうですね。ルールはどんどん複雑になって、たとえば「この値とこの値の掛け算が一定以上ならこう反応を返せ」みたいな感じです。こうなるとルール自体、人間には理解できなくなりますが、実際は値のところはセンサー入力を使うような形で複雑化しています。ルールが複雑になると、動きはより賢くなっていくと考えていいでしょう。

塩野松尾先生は、東京大学で人工知能に取り組んでいらっしゃいますが、具体的にどんな研究をされているのでしょうか。

松尾いろいろな観点がありますが、大きく分けると3つです。まず1つは、人工知能にはどんなデータが使えるのか、何が有用なのかを調べるデータ自身の研究です。ウェブの研究やビッグデータの研究が該当します。次はそのデータを使ってどんな方法でルールを作っていけばいいか。自動的にルールを学習する方法ですね。機械学習やデータ分析の研究です。そして3番目が、ルールを作るシステムや「アルゴリズム」を使って、どんな応用ができるかを考える。応用に関する研究です。データの入り口と処理、そして出口。こんなイメージでしょうか。

塩野ルールの作り方ですが、いま話題の「人工知能を使った将棋」でいうと、どんな方法で進めていくのでしょうか。

コンピュータに教えるのは「ふるまい」

松尾いちばん簡単なところから考えると、王手を指されたら逃げるというルールができます。将棋のプログラムを作るとしたら、最初に思いつくルールですよね。そして、次に考えることは、相手の駒が「王」の周囲に来たら逃げる。王手はされなくとも、近寄って来たら逃げる。もう少し進化させるとしたら、駒の数は相手が少なく自 分は多いほうがいいので、相手の駒が取れるときは取る。さらに「飛車」や「角」は大事な駒ですから、「歩」は取られてもいいが「飛車」と「角」は守る。相手の大事な駒は取る。

次の段階は、いまの盤面は自分がどれくらい有利か不利かをスコアリング、つまり得点で表すこと。たとえば、自分が持っている駒の数から相手の駒の数を引く。そこに「飛車」や「角」が含まれていたら、3倍するような計算を行います。あるいは「王」の周りにいる相手の駒の位置を見て、距離が近ければマイナスするといった工夫をして、盤面のスコアを計算できるようにするわけです。

塩野なるほど。その先は複雑な計算が入ってきそうですね。

松尾ええ。ここまで来ると、もっと難しいこともできるようになります。自分がこう打って相手がこう返したとき、スコアがどのくらい変わるかが計算できます。ここまで来ると、あとは何手先まで読むかの話ですね。3手先までなら、そこまでの自分と相手の手を想定してすべてのパターンを出し、それぞれのスコアを算出する。

これを「ミニマックス法」と言いますが、自分は評価関数のスコアを上げたい、大きくしたい。相手はこちらのスコアを小さくしたい。自分の選択肢はよいほうを取って、相手は自分のスコアが下がるような選択をしたとき、その中でもスコアがいちばんいい方法を選ぶ。平たく言うと、相手が最善と思える「手」を打ってきたときに、もっとも自分が有利になる「手」を考えることです。

塩野なるほど。それでは、将棋や車の自動運転では、中でいろいろな計算式が動いていると考えていいのですね?

松尾そうです。いろいろなことが起こる確率の中で、実際にそれが起きてしまったときに、どれくらいまずいことになるか。そういった計算がたくさん行われて、システムの「ふるまい」が決まってきます。

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