松尾:感覚としては分かりますが、四則演算でコンピュータが人間より速いことに関しては、人間はコンピュータを怖がってはいませんよね。単純な処理をただ繰り返すとか、力が強いとか、そうした部分で他の存在が人間を大きく超えても、恐ろしいと思う人はあまりいないでしょう。
塩野:確かに。エクセルはまったく怖いと思わない(笑)。
松尾:人間が恐れていない理由は、人間の生物としての競争力が学習能力にあって、いろいろな経験から学んでいけるからです。そしてそれを次の世代に伝えていける。この要素が非常に大きい。ですから他の動物に比べ体は貧弱でも、これだけ地球を支配しています。人工知能が人間に匹敵する、もしくは上回るほどの学習能力を備えることができたとしたら、そのときは人間社会を大きく変える可能性があるような気はしますが……。
学習する人工知能が、怖い存在になる!?
松尾:機械に追い抜かれる不安という意味で、直接の答えにはならないかもしれませんが、いま人工知能の「機械学習」と呼ぶ領域でいろいろなテクノロジーが進化していて、たとえば、どんなサンプルデータをどんな順番で与えていけば、学習がよく進むかという研究があります。これはまさに、子どもにどんな順番で教えていけば、子どもはよく吸収するかを考えることと似ています。
塩野:似ていますね。人間が何かを学ぶ、たとえば、算数や英語を学ぶことと同じようなやり方で、人工知能も学ぶのでしょうか。
松尾:いや、そこはかなり異なります。人間と似せるのは難しいので、コンピュータはコンピュータ向けの単純化した方法で学習します。
人間とは手順が異なりますが、学習するときは単純なことから始めたほうがいい点は普遍的な真実です。これは事象の階層性に依存していて、物事は単純なものが組み合わさって複雑なものになって、それらがまた組み合わさって、より複雑なものができている。階層性を持つことが多いため、単純なところから学んでいったほうが効率はいい。これは人間、コンピュータを問わず、学習に共通する考え方だと思います。
コンピュータは階層化された下位層の方から学習する手順は会得できますが、物事を階層化、体系化して捉える、考え方を設計・構築することは、いまのところ人間がはるかに上をいっています。
しかし、この先の技術によってコンピュータも進んでいくでしょう。
塩野:なるほど。その点はよく分かりました。ただ、感覚的には人工知能が発展するのは歓迎するとしても、人間に似たことをしているくせに人間とは違うモノが入っていて、しかも人間を超える可能性を秘めるという点は、やはり人間側に若干の不安が残りますね。科学的には説明しにくい、ロボットにおける「不気味の谷」のようなものかもしれません。
後編に続く。
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