介護施設のずさん運営に見た仏「格差社会」の葛藤 富裕層向け施設のひどい実態が暴露され大騒ぎ

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さらに最悪なのは、自分が知らないところで契約書にあたかもサインしたようになっていたり、その施設の被雇用者リストにあるにもかかわらず、誰も職場で会ったことのない人物もいたりしたという。労働監督官の目を欺くための隠蔽工作も行われていた。

これらの不正行為の目的は自治体からの補助金を得ることや、収益性を高めて株価を上げるためだったとされる。

オルペア社は人件費の補助などの名目で、フランスの政府健康保険システムから少なくとも年に3億5000万ユーロ(約455億円)を受け取っているとメディアは指摘している。仮に指摘されたような巧妙な手口で不正な臨時雇用や架空雇用を繰り返し、労働法違反があったとすれば、補助金の返還、および補助金を受け取る資格を失う可能性もある大スキャンダルだ。

さらに入居者に対して、プロ意識に欠ける臨時雇用職員による虐待が日常化し、大人用おむつの取り換えは1日3回と厳しく制限され、食事も特別料金を支払わなければ粗悪なものしか与えられず、自力で食事できない入居者が放置され、最大限利益を引き出すための過度の効率化、極端な経費節減の厳しいルールが適応されていたしわ寄せが最終的に入居者に降りかかっていたとされている。

一般のフランス人は複雑な思い

南フランスのサン・ラファエロで老後を過ごす筆者の義理の兄、クリスチャンはかつて保険会社の役員を務め、家を何軒も持つ富裕層に属し、オルペア社が運営する高級介護施設に80歳を過ぎたら入居予定だった。それにオルペア社の株も所有していた。

ところが、このスキャンダルで株は暴落し、入居予定を断念し、今は他の施設を探していると言ってきた。ただ、富裕層向けの介護付き高齢者施設への不信感が強まったことから、大いに戸惑っているという。

何人かの平均的なフランス人に取材してみると、関心は非常に高く、報道を通じて得た不正行為の詳細について知れ渡っていると同時に、世界的に知られるシルバービジネス企業と彼らが運営する富裕層向けの高齢者施設の犠牲者という構図に、なんとも複雑な思いもうかがえた。富裕層の高齢者が人生の終末期を豊かに過ごすことへの嫉妬心も垣間見えたからだ。

階級社会を脱するために200年以上前に大革命を行い、自由、平等、友愛の精神を掲げたフランスだが、国立統計経済研究所(INSEE)の2018年の発表では、フランス人の最も裕福な1%が全総資産の16%を所有し、5%がフランスの全資産の3分の1を所有しているということで、貧富の差はドイツよりも大きいのが現実。つまり、平等は理想であって、富裕層に対する一般のフランス人の目は厳しい。

フランスに極左の政治勢力が健在で、左派による黄色いベスト運動(政府への抗議活動)が長期化しているのも、このような社会的不平等の現実が影響しているといわれている。

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