介護施設のずさん運営に見た仏「格差社会」の葛藤 富裕層向け施設のひどい実態が暴露され大騒ぎ

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今回、インサイダー取引の容疑で捜査対象になっている同社CEOを10年以上務めていたル・マスネ氏は昨年7月、持ち株の3分の1に相当する60万ユーロ(約7800万円)近くの株を売却したことが判明している。

通常の出版に先立ち、暴露本の場合は数カ月かけて内容が小出しにされることが多い。ル・マスネ氏は暴露本の出版が近づいていることを知る数少ない関係者だった。つまり、株価が暴落すると考え、事前に持ち株を売却した可能性が高いと見られている。

ル・マスネ氏は解雇後の2月初めのメディアへのインタビューで株売却について「カスタネ氏の本とは何の関係はない」と述べ、「会社の将来に完全な自信を持っている」「夏に株を売却するのはいつものことだ」と述べ、インサイダー疑惑を否定している。

オルペア社はフランス国内の354の施設を含め、世界各地で1200以上の施設を運営するシルバービジネス世界最大手の企業。カスタネ氏に19億円払ってでもスキャンダルを抑えたかった背景には、潤沢な資金があることがうかがえる。報道によれば、オルペア社の株価は1株90ユーロだったのが、本が出版された1月以降、株価は今、37ユーロに暴落している。

労働組合にスパイ、不正雇用…

暴露本の中で驚くような実態が明らかになっている。例えばオルペア社にとって、共産党系の労働組合は目障りな存在だった。かなり以前から“赤狩り”のためにリスク管理会社のシナジー・グローバル・グループ(GSG)と契約し、スパイを募集し、そのスパイに月額1万5000ユーロ(約195万円)を支払っていたことも明らかになっている。

スパイとして雇われた者たちは職場に潜入し、会社にとって有害な組合員をリストアップし、彼らの動きを経営陣に逐一秘密のメモとして報告していたとされる。現在は経営者側に近い組合リーダーが全体の60%を占め、共産党系のフランス労働総同盟(CGT)は15%、フランス民主労働総同盟(CFDT)は9.5%となっており、CGT幹部は「明らかに不正が行われていた」と憤慨している。

一方、雇われる職員の不正雇用の実態も指摘されている。フランスでは期限付き雇用は労働者を守る観点から厳しく制限されており、正社員は基本無期限雇用となる。結果、経営を圧迫することになるため、オルペア社は、期限付き雇用の契約書にサインさせ、株主や当局には、正社員として雇ったとうその報告をしていたと指摘されている。

仕事に困っている人の多くが、会社の言いなりになり契約書にサインしてしまう。そのため、ケアに関わる職員の証言では、プロとしては認められない介護補助要員が多かったという。さらに架空雇用も指摘されており、給与を支払ったかのように装っていた実態も明るみに出ている。実際、名前を使われた看護師、介護士当人が知らなかった例は続出している。

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