「科学で感覚を磨く」、それが"究極のID野球" 運動動作解析の第一人者、川村卓氏に聞く

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一般的にイップスは、精神面によるところが大きいとされている。そこで川村がイップスの選手たちを動作解析すると、ある共通点を発見した。一般的にボールを投げる際、正しいとされるリリース法では、まずは親指が先にボールから離れ、最後に人差し指と中指でボールを下に切るようなイメージで離していく。だがイップスに陥った選手たちは、親指がなかなか離れず、3本の指からボールが抜けるような感じになっていた。

イップスを解消するためにとった方法とは?

ボールがうまく抜けるようになった者は、親指が先に離れるようになっていた

川村はイップス経験者やピッチングコーチと議論を重ね、ひとつの解消法を編み出した。「パラボリックスロー」というものだ。パラボリックは放物線の意味で、10メートルの距離でゴミ箱を少し高い位置に置いて、山なりのボールを投げる。

実験を重ねると、ボールがうまく抜けるようになった者は、親指が先に離れるようになっていた。この練習を繰り返すことで、コントロールがよくなったという。

「もちろん、イップスには精神的な側面があります。こうしたドリルはひとつの方法論にすぎないので、合う人と合わない人が必ず出てくる。ただ、イップスになった人に対し、このドリルは高い効果が出ています」

現在、川村が筑波大学大学院に構える研究室に、ふたりの元プロ野球選手が通っている。近鉄やメッツなどで活躍した吉井理人と、巨人、横浜などでプレーした仁志敏久だ。彼らは川村とともに野球を科学的に掘り下げ、「現役時代にこういうことを知ったうえでプレーしたかった」と感じるようになった。感覚と科学的に裏打ちされた理論を組み合わせれば、さらなる技術向上につなげられるからだ。

経営学でも野球でも同じだが、物事を体系立てて見ることが大事なのは、自身の方法論が本当に正しいのかを確認することと、万人が理解&実践できるように理論構築できることが理由として挙げられる。

現在、川村に動作解析を依頼するプロ野球選手、コーチは増えている。そうして現場の感覚とすり合わせながら、川村は自身の研究を深く追求している。

かつて川村とともに筑波大学大学院で学んでいたのが、西武、日本ハムで活躍した投手の新谷博だ。150キロメートル近いストレートを武器に1994年には最優秀防御率に輝き、現在は女子野球日本代表の監督を務めている。

当時、川村の同僚で、どうすれば球速150キロメートルのスピードボールを投げられるかを研究している者がいた。過去の論文によると、ボールのスピードが球速140キロメートル前後に到達した投手の場合、いくら投げる腕を速く振ろうが、ボールの速さには関係しないという実験結果が出ていた。球速140キロメートルを超える投手がスピードボールを投げるためには、腕のしなりを起こす内外旋が最もポイントになるとされていた。

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