広がる表現「多様なジェンダー」描くドラマの魅力 新たな見せ方の工夫が作り手にとっては面白い
2022年の年明けに放送された「緊急取調室 特別招集2022~8億円のお年玉~」(テレビ朝日)に、新メンバーとして加わった生駒亜美(比嘉愛未)というキャラクターがいた。
彼女は「警視庁では主要なポストに女性がついていない状況を改善したいので」と、仕事で大きな成果をあげたいとはっきり口にし、事情聴取先の家を見て「妻はキレイ好きだな」という男性刑事に対し、「家事をするのが妻という考えは古いですよ」と言い放つ。
また年配女性に対する「オバハン」という呼び方にも反応するなど、「頭が良くて正論を言う、少し鬱陶しい女」という位置づけだった。
この作品では生駒自身の心情や成長がきちんと描かれていたためそれほど気にはならなかったが、ドラマのなかでジェンダーロールの押し付けに物申すキャラクターは、彼女のような高学歴の若い女性に割り当てられることが多い。
そして彼女たちの指摘を受けた男性たちの「気をつけまーす」「コワイコワイ」といった反応込みで描かれることで、そのやりとりは「ああ、また意識高い系のうるさい女が騒いでる」という印象を生む。いわゆる “フェミニスト”描写だ。それはひと昔前のお仕事ドラマでよく描かれた「お局様」のような記号的存在として定着しつつあるように感じる。
「相棒」のシーン改変に見るジェンダーバイアス
それとは少し異なるが、同じく2022年の「相棒 元日スペシャル」(同)で、脚本にはなかった派遣社員の不当解雇に抗議するデモの場面が現場で付け足されたことが問題となった。
放送後、脚本を担当した太田愛が自らネットに発表した文章によれば、その場面は本来、会社側の男性社員が会社を責めるニュアンスで派遣切りについて説明する場面だったという。それをデモ隊の女性たちが杉下右京(水谷豊)と冠城亘(反町隆史)を囲み、ヒステリックな口調で状況説明するというシーンに改変(正直、改悪と書きたい)したのも、“フェミニスト”描写に通じるジェンダーバイアスだ。
一方、この「女はすぐ感情的になる」という偏見を逆手にとってみせたのが「アンナチュラル」(TBS、2018年)の第3話だった。法廷での証言中に声を荒げてしまったことで、ヒステリーとのレッテルを貼られたミコト(石原さとみ)が、仕事の結果でそれを跳ね返す。クライマックスで直接相手をやりこめる役割を男性に譲らざるを得ないという展開も含め、現代の女性が悩まされる女性蔑視を見事にあぶりだした回だった。
ミコトが最後に言う「今日のところは法医学の勝利でよしとする」という台詞の「今日のところは」が胸に響く。
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