広がる表現「多様なジェンダー」描くドラマの魅力 新たな見せ方の工夫が作り手にとっては面白い
1985年に男女雇用機会均等法が成立し、「男は仕事、女は家庭」という古いジェンダーロールが崩れ始めた。そのころからドラマの世界でも、主流だったホームドラマが減り、社会へ出て恋や仕事に向き合う女性を描くドラマが増えていく。トレンディドラマの興隆もあり、画面のなかの女性たちは仕事に恋に、新たな人生を謳歌し始めた。
そこでクローズアップされるようになったのが「仕事か、結婚か」という選択だ。働く女性を主人公にしたドラマでは、クライマックスで必ずと言っていいほど、この二者択一が描かれる。そして多くの場合、彼女たちは結婚ではなく仕事を選択し、結婚のほうはご破算になってしまう。
自分の仕事に真剣に向き合う女たちが魅力的に描かれていた「29歳のクリスマス」(フジテレビ、1994年)も「働きマン」(日本テレビ、2007年)も、主人公は海外や地方へ転勤する恋人についていくかどうかで迷い、結局仕事を選んで恋人とは別れる道を選ぶ。
そして、ドラマは基本的にその選択をポジティブに描く。結婚して男性についていくよりも仕事をとるのは、その時点においては「自立していてカッコいいこと」であり、働く女の一つのロールモデルになっていく。
「仕事か、結婚か」の二択の構造がおかしい
もちろんそのこと自体にまったく異存はないが、彼女たちがカッコいいのは「仕事を選んだから」ではなく「自分自身で将来を選択したから」だ。ところが「結婚より仕事を選ぶ=自立していてカッコいい」というイメージが強く印象づけられると、反対に女が仕事よりも結婚を選ぶ結末はちょっと残念に感じてしまうのだ。
そもそも「仕事か、結婚か」の二択が、女だけに当然のように突きつけられている構造自体がおかしいにもかかわらず、だ。
結局これは「女は家庭に入るもの」という古いジェンダーロールが、「仕事を優先させる女は結婚できない」「専業主婦は楽をしている」という新たなジェンダーバイアスに転移しただけだったのだ。
1990年代から2000年代には、さらに「結婚退職せず長く職場にいる女はお局様化する」「専業主婦は自己実現できずに欲求不満」などなど、根本的なジェンダー不平等を足場にしたままのわかりやすいステレオタイプが、ドラマのなかで量産されていく。
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