広がる表現「多様なジェンダー」描くドラマの魅力 新たな見せ方の工夫が作り手にとっては面白い

ドラマのジェンダー表現も大きく変わってきています(写真:nekosanda/PIXTA)
テレビドラマの表現には、その時代の(作り手の)ジェンダーに対する感覚が色濃く反映される。近年の名作ドラマのなかには、時に意識的に、時にさりげなく、ジェンダーバイアスを乗り越えようとするシナリオや演出が目立つようになっている。その理由と意義とは。
「お茶は男女問わず入れる」という表現が自然に
2021年放送のドラマ「最愛」(TBSテレビ)に、こんな場面があった。殺人事件の捜査本部で刑事たちが机を囲んで会議をしているところへ、捜査一係長の山尾(津田健次郎)が全員分のコーヒーを運んできて配ったのだ。
自然な流れで、ドラマ内で特にそのことへの言及もない。それは当たり前の仕事場の風景として描かれていた。単なるマスコットとしてのお茶汲み係がいた(「太陽にほえろ!」の)七曲署の刑事部屋からはるばる遠くへ来たものだ、と感慨深かった。
また「特捜9」(テレビ朝日)のある回では、羽田美智子演じる女性刑事からコーヒーを手渡された同僚たちが口々に「ありがとう」と応えていたのも印象に残っている。
もちろん現実社会では、まだまだ女性社員がお茶汲みをさせられている場面も多いだろう。けれどドラマのなかでは、「お茶は男女問わず手が空いている人間がいれる」「いれてもらったら感謝を伝える」という表現が自然になった。とても些細なことではあるが、だからこそ重要なのだと思う。
テレビドラマにおけるジェンダー表現は物語の一部として描かれる分、実生活とリンクしやすい。こうした小さな表現の積み重ねが無意識に刷り込まれ、視聴者のジェンダー観を形成するきっかけになっていくからだ。
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