広がる表現「多様なジェンダー」描くドラマの魅力 新たな見せ方の工夫が作り手にとっては面白い

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2010年代には、ジェンダー不平等への抵抗や、ジェンダーバイアスそのものに疑問を呈するドラマも多く現れた。

その代表といえば「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS、2016年)だろう。結婚すれば女性が無償で家事をやってくれるので家計としては合理的、好きならそれができるだろうという考え方を「それは好きの搾取です」と看破したり、女の価値は若さという考えを「呪い」と言い当てたり、当たり前と流されがちなジェンダーバイアスやジェンダーロールの押しつけに正面から疑問を呈しつつ、恋愛コメディとしても魅力的な作品だった。

筆者が忘れられないのは、第2話でみくり(新垣結衣)と平匡(星野源)の家に遊びに来た沼田(古田新太)が急な雷雨で帰れなくなるシーンだ。

大きな雷鳴に「キャーッ!」と怯える沼田を映した直後、画面は百合(石田ゆり子)が暮らす広いタワーマンションの一室に切り替わる。電気を消してワイン片手にソファに座り、大きな窓の向こうで鳴り響く雷を見ながら「うわー、キレイ!」と満面の笑みを浮かべる百合ちゃん。五十路の女一人暮らしは寂しいだろうとか、女は雷を怖がるものといったジェンダーバイアスを軽やかにひっくりかえす最高のシーンだった。

日常のなかの違和感をきちんと言語化し、対話によってそれを改善していこうとするみくりと平匡のやりとりだけでなく、こういうふとした場面にも作り手の目指すものが滲んでいた。

日常のなかの小さな声や描写で伝える作品も

近年のドラマでは、押しつけられるジェンダーロールに対する異議申し立てを、日常のなかの小さな声や描写そのもので伝えようとする作品も増えているように思う。

「MIU404」(TBS、2020年)で、機動捜査隊隊長の桔梗ゆづる(麻生久美子)が、SNSでの「顔や体で仕事をとっている」という中傷に対して、夜食を食べながら「ふざけんなっつの。働いてんだよ、こっちは。古臭い男社会のなかでめげずにきっちりやってきた人の努力をさ、何だと思ってんの」と吐き出す言葉の切実な痛み。

26歳の独身女性がマンション購入に向きあう姿を軸に、女が一人で暮らすことの多様な姿を描いた「プリンセスメゾン」(NHK、2016年)。バツ3女性の、バツがあるからこその魅力を見せた「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ、2021年)。「カルテット」(TBS、17年)の、男女4人が同居する家で、特にエクスキューズもなく主に食事を作るのは男性二人という日常描写も印象的だ。

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