ロシアの「ウクライナ侵攻」いつ、どう始まるのか それは正真正銘の戦争とは違った形をとる
ウクライナ東部の前線監視拠点の凍てつく塹壕では、ウクライナ兵が神経をすり減らしながら潜望鏡をのぞき込み、待機を続けている。
ロシアはいつでもウクライナを攻撃できる態勢にある――。西側諸国はそう警鐘を鳴らし、アメリカのバイデン政権は東欧への部隊派遣のほか、軍艦やミサイルの配備を検討。北大西洋条約機構(NATO)も1月24日、加盟国による軍艦や戦闘機の同地への派遣を発表した。
インフラを使った偽装工作が有力シナリオ
だが、軍事行動は具体的にどのようにして始まるのか。軍事アナリスト、欧米とウクライナの政府関係者、そして何よりも最初にそれを知ることになると思われるウクライナ兵士の間では、不安の高まりとともに、そのシナリオの推測が繰り返されている。
ロシアがウクライナに侵攻するのだとしたら、それは戦車の領土侵入や突然の空爆といったような大規模な力の誇示によって始まることはない、というのが大半の軍事アナリストの見解だ。ロシアはそれよりもっと曖昧で限定的な行動から着手し、それを口実に介入を広げる、というわけである。
アメリカとウクライナの政府関係者によると、そうした行動にはさまざまな形態が考えられる。たとえば、ロシアが支援するウクライナ東部の分離独立派が発電所など紛争地域のインフラを占拠するケースだ。
また、それは「空気中を漂うガス」といったように、目に見えない形で始まる可能性もあるという。ロシアがウクライナ東部のアンモニア工場で「事故」を意図的に引き起こし、それを収束させる名目で軍隊を派遣するといったシナリオだ。これは、ウクライナの軍事情報機関が1月に指摘した可能性である。
ウクライナは、ロシアが国境付近に配置した地上軍の規模を約12万7000人と推計している。「さまざまなシナリオを想像させるのに十分な規模だが、戦略的な意図を隠すだけの不確実性も漂わせている」と、イスラエルのライヒマン大学でロシアの軍事政策を研究するドミトリー・アダムスキー氏は語る。