ロシアの「ウクライナ侵攻」いつ、どう始まるのか それは正真正銘の戦争とは違った形をとる

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中でもウクライナ当局とアメリカの外交官がとりわけ警戒しているシナリオがある。それは、ウクライナ東部で最も危険な工業地帯に存在するアンモニアガス工場で「事故」が引き起こされるというもの。同工場は親ロシアの分離独立派が支配する地域にあり、前線から数キロメートルしか離れていない。

アンモニアは肥料の原料となるが、高濃度のガスを吸引すると死に至る場合がある。

当局者によると、工場から有毒なガスが漏れ出してウクライナ側とロシア側の双方の兵士と民間人に被害が出るというのが有力シナリオの1つ。その場合には、事故対応を口実にロシアが兵士の「護衛」付きで緊急対応チームを送り込む、といった展開が想定される。

陰謀と暴力の多彩なメニュー

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は昨年12月、根拠を示すことなく、アメリカの傭兵がウクライナ東部に何らかの化学物質を持ち込んだと発言した。西側が支援するウクライナ政府に「有毒ガス漏洩事件」の責任をかぶせる土台をつくることが狙いだったとみられる。

これに対しウクライナ政府は、ロシアが工場敷地内にガスボンベを運び込み、すでに大量に存在する備蓄量を一段と増やしたと、表だって警告している。さび付いた広大な工場では、いつ事故が起こってもおかしくないという。

さらに、ウクライナとロシアの艦船が近接して航行するアゾフ海での衝突が侵攻開始のきっかけとなるシナリオのほか、分離独立派が支配する地域でロシア語を話す民間人を標的とした攻撃を自作自演する「偽旗作戦」で侵攻の口実がつくり出される可能性も指摘される。

軍事アナリストによれば、純粋に政治的な理由が侵攻の口実とされる展開もありうる。アメリカとイギリスをはじめとするNATO諸国がウクライナに武器を供与したせいで、わが国の安全が脅かされているとロシアが言い張るシナリオだ。

侵攻が限定的なものであったとしても、その政治的圧力は大きく、ウクライナ政府はロシア政府の意向に屈することになるかもれない。ウクライナ東部紛争の和解について、ロシアが提示する条件を丸のみさせられるということだ。

そうなればウクライナ議会は、ロシアの息がかかった分離独立派の人物を受け入れざるをえなくなるだろう。限定的な侵攻が大規模な軍事介入に発展する可能性も存在する。ロシアによる空爆・上陸作戦、さらにロシアと同盟関係にあるベラルーシ側から戦車による攻撃が行われるシナリオだ。

(記者:Andrew E. Kramer)
(C)2022 The New York Times Company

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