最も革新的なのは、45年前のコーヒー?

スタバ、ブルーボトルだけじゃない革新の物語

まず、やるべきことを決める。たとえば「地球環境は危機に瀕している。人類を火星に移住させる」「世の中の車をすべて電気自動車にする」「持続可能エネルギーを普及させる」といったものだ。

そして、やるべきことを実現する方法を考える。そして、失敗から学び、改善しながら、愚直に実行し続ける。

本連載のテーマであるコーヒー業界にも、同じアプローチで取り組み、イノベーションを起こした事例がある。それも、45年前の日本。舞台は皆さんが日常的に飲んでいる缶コーヒーだ。

缶コーヒー市場がどれだけ大きいか。2010年のペット関連市場が4000億円(富士経済)、家庭用ゲーム市場は5000億円(ファミ通)。これに対して、缶コーヒー市場は実に8000億円もある。

実は、缶コーヒー誕生物語には、イノベーションを生みだすためのエッセンスが凝縮されている。そのアプローチはイーロン・マスクの取り組みと変わるところはない。そして現代の日本企業が現状の打開を図るうえでのヒントも得られるのだ。そこで今回は、缶コーヒーが誕生した45年前に舞い戻って、どのようにそれが生み出されたのかを見てみよう。

常識外れだった缶コーヒー開発プロジェクト

世界初となる缶コーヒーを生み出したのは、UCC上島珈琲の創業者である上島忠雄社長(当時)だ。1960年代後半、上島忠雄社長は列車で得意先回りを続ける忙しい日々を過ごしていた。その上島社長、駅の売店にある瓶入りコーヒー牛乳がお気に入りだった。

ある日、瓶入りコーヒー牛乳を飲んでいると、急に列車の発車ベルが鳴った。当時の瓶入りコーヒー牛乳は、飲み終えたら店に瓶を返却する必要があった。上島社長は慌てて店に飲みかけのコーヒー牛乳を返却し、列車に飛び乗った。そして思わずこんな言葉が出た。

「あー。もったいないことをした」

上島社長の脳裏からは、半分飲み残したまま店に返したコーヒー牛乳のことがなかなか離れなかった。そしてここで突然ひらめいた。

「そうだ。コーヒーを缶入りにすれば、全部解決だ。いつでもどこでも飲める。飲み残しもない。常温でも流通できる。商材としても扱いやすいんじゃないのか?」

すぐさま社に戻ると、「缶コーヒー開発プロジェクト」を始動した。

しかし当時、この考え方は常識破りだった。缶入り飲料と言えば、ジュースやコーラしかない時代だ。コーヒーは喫茶店で飲むのが当たり前。家庭でコーヒーを飲む人はまだ少なかった。こんな時代に缶入りコーヒーを開発し販売するというのは、実に荒唐無稽な発想だったのだ。

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