最も革新的なのは、45年前のコーヒー?

スタバ、ブルーボトルだけじゃない革新の物語

では、なぜUCCは缶コーヒープロジェクトでイノベーションを起こすことができたのか? それはイーロン・マスクと同じアプローチを取ったからだ。「できること」から考えなかったのだ。現在の人類が火星に8万人を移住させる能力を持っていないのと同様に、上島社長が「缶コーヒー開発プロジェクト」を始動した当時のUCCも、缶コーヒーの開発・製造技術も販売チャネルも持っていなかった。

もし「自分ができること」を起点に考えていたら、イーロン・マスクの取り組みは生まれなかった。同様に「缶コーヒー開発プロジェクトを始めよう」という発想にも至らず、缶コーヒーは生まれなかっただろう。

UCCは、徹底的に顧客の立場に立って「やるべきこと」を考えた。「コーヒーを缶入りにすれば全部解決だ」と考え、社内のリソースを投入し、熱い情熱を持って缶コーヒービジネス実現に向けて取り組んだ。そして困難に突き当たっても粘り強く開発を進め、新しい顧客を生み出し、コーヒー市場を変革したのだ。原動力は「顧客を喜ばせたい」というパッション。だから少々の困難があっても、決してあきらめなかった。

コーヒー業界を題材にしたビジネス戦略については、永井氏の著書『戦略は1杯のコーヒーから学べ!』にも詳しい

「できること」から考えず、まず「やるべきこと」から考える。

そして、「やるべきこと」を実現するために「足りないもの」を把握する。

そして「足りないもの」をいかに解決するかを具体的に考え、愚直に取り組み続ける。

これがまさにイノベーションへのアプローチなのだ。

「日本が『失われた20年』に陥ったのは、リスクを取って新しい挑戦をしなかったからだ」と言われている。見方を変えると、これは「できること」を起点にして何をすべきかを考えたためなのだ。「できること」は過去の成功体験だ。しかし過去の成功経験に基づいて考えているかぎり、新たな未来を作り出すイノベーションは到底実現できない。

今、考えるべきは「やるべきこと」。そして「やりたいこと」。自分の前にある未来をいかに創っていくのかを考えるべきなのだ。

1969年、缶コーヒーに果敢にチャレンジし、幾多の困難を乗り越えて8000億円の市場を創造したUCC缶コーヒーの誕生物語は、未来志向で考える大切さを、現代の私たちに教えてくれているのである。

それは今、人類の未来のために戦っているイーロン・マスクの取り組みにも相通じるのである。

(=敬称略)
 

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