最も革新的なのは、45年前のコーヒー? スタバ、ブルーボトルだけじゃない革新の物語

✎ 1〜 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 6 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

では、なぜUCCは缶コーヒープロジェクトでイノベーションを起こすことができたのか? それはイーロン・マスクと同じアプローチを取ったからだ。「できること」から考えなかったのだ。現在の人類が火星に8万人を移住させる能力を持っていないのと同様に、上島社長が「缶コーヒー開発プロジェクト」を始動した当時のUCCも、缶コーヒーの開発・製造技術も販売チャネルも持っていなかった。

もし「自分ができること」を起点に考えていたら、イーロン・マスクの取り組みは生まれなかった。同様に「缶コーヒー開発プロジェクトを始めよう」という発想にも至らず、缶コーヒーは生まれなかっただろう。

UCCは、徹底的に顧客の立場に立って「やるべきこと」を考えた。「コーヒーを缶入りにすれば全部解決だ」と考え、社内のリソースを投入し、熱い情熱を持って缶コーヒービジネス実現に向けて取り組んだ。そして困難に突き当たっても粘り強く開発を進め、新しい顧客を生み出し、コーヒー市場を変革したのだ。原動力は「顧客を喜ばせたい」というパッション。だから少々の困難があっても、決してあきらめなかった。

コーヒー業界を題材にしたビジネス戦略については、永井氏の著書『戦略は1杯のコーヒーから学べ!』にも詳しい

「できること」から考えず、まず「やるべきこと」から考える。

そして、「やるべきこと」を実現するために「足りないもの」を把握する。

そして「足りないもの」をいかに解決するかを具体的に考え、愚直に取り組み続ける。

これがまさにイノベーションへのアプローチなのだ。

「日本が『失われた20年』に陥ったのは、リスクを取って新しい挑戦をしなかったからだ」と言われている。見方を変えると、これは「できること」を起点にして何をすべきかを考えたためなのだ。「できること」は過去の成功体験だ。しかし過去の成功経験に基づいて考えているかぎり、新たな未来を作り出すイノベーションは到底実現できない。

今、考えるべきは「やるべきこと」。そして「やりたいこと」。自分の前にある未来をいかに創っていくのかを考えるべきなのだ。

1969年、缶コーヒーに果敢にチャレンジし、幾多の困難を乗り越えて8000億円の市場を創造したUCC缶コーヒーの誕生物語は、未来志向で考える大切さを、現代の私たちに教えてくれているのである。

それは今、人類の未来のために戦っているイーロン・マスクの取り組みにも相通じるのである。

(=敬称略)
 

永井 孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ながい たかひさ / Takahisa Nagai

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。

オフィシャルサイト

X(旧Twitter) @takahisanagai

永井経営塾

 

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事