「学生時代に3年間付き合っていたときには見えなかったことが、結婚した後に見え始めました。たとえば、財布をどうするか。前妻は『当然、家計を預かる私が持つ』と言いましたが、僕は嫌だった。お互いに若かったのでまったく引くことをせずに、ぶつかり合ってしまいました」
最も譲れなかったのは、邦夫さんのキャリアに関することだ。邦夫さんは以前から大学病院に戻って医療の最先端に身を置きたいと思っていた。民間病院の勤務医に比べると、給料は低くて仕事は忙しいのは覚悟のうえだ。しかし、前妻は「子どもと自分のためにも今の病院に残るべきだ」と主張。言い争いが続いた。
「大学に戻る夢は結婚する前から話していました。彼女も理解してくれていると思ったのですが、向こうは向こうで『結婚したらこの人は変わってくれるだろう』と期待していたようです」
ここで重要な反省点が語られている。「結婚したら相手は変わるだろう」という甘い見通しを持つことの危険性だ。成人した男女の性格や価値観は、基本的には変わらないと僕は思う。結婚後に意外な一面が見えることもあるが、それはむしろ本人の「地金」である。生活環境や立場の変化に伴って多少は心持ちが変わるとしても、配偶者が希望する方向に成長してくれるわけではない。
10歳年下の妻と再婚、きっかけは「親同士の見合い」
邦夫さんと離婚してすぐに前妻は再婚をした。親権は前妻が取った。今では17歳となっている子どもとの面会も、拒絶されたまま現在に至る。淡々と語る邦夫さんの表情からは、妻だけでなく子どもとも別れてしまった苦悩を察することはできなかった。しかし、単なる離婚以上に後悔の残る過去であることは確かだ。
「その後、短い間だけ付き合った女性も多少はいました。でも、積極的になれずに長続きしません。『この人の相手は自分でいいのだろうか。好きになった女性が結婚相手としてふさわしいと言えるのだろうか』と考えすぎてしまうのです。離婚経験がトラウマになっているのかもしれません」
一方で、気ままな独身独り暮らしを謳歌してきたことも事実である。鉄道好きである邦夫さんは、時間さえあれば独りきりの鉄道旅行に出かける。そこに鉄の道があるかぎり、寂しさはあまり感じない。「やりたい放題」できる独り旅のほうが気楽なのだ。
そのまま10年が過ぎた。関西地方の病院で勤務していた邦夫さんのところに、抜き打ちで母親がやってきた。
ろくに掃除もしていない邦夫さんの独り暮らし部屋を一瞥し、「いい加減にしなさい。こんな暮らし方で一生独身でやっていけると思うの!」と邦夫さんをしかりつけた。「お前には女性を見る目がない。ほかの人に任せなさい」と半強制的に結婚相談所に登録させられ、3カ月に1度のペースでお見合いをする生活に突入した。
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