「円安なら株価が上がる」は本当か まじめに「円安と株価の関係」を考えてみた

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さて、したがって、円安になっても、これらの生産は日本には戻さない。当初は円高対応がきっかけだったが、実際に海外に拠点を置いて見ると、賃金の違いは為替の20%などでは埋められない差であり、しかも、販売先の市場に近い立地で生産することのメリットが大きいことに誰もが気づいたからである。

人を雇うのであっても、現地の人々を使った方が、現地にふさわしいものづくりができることは、よく考えてみれば明らかだった。

この結果、価格競争だけのコモディティだけでなく、付加価値の高いモノであっても、現地で作るという流れが定着した。したがって、今後も、円安ぐらいでは日本に生産を戻すということは起きにくいだろう。

円安で株価が上がる2つのメカニズム

しかし、それでも、円安で企業収益は改善し、株価は上がる。それは、2つのメカニズムである。第1に、もともと日本から輸出していたモノの利益率が高まることである。400万円のコストをかけて作った自動車を米国市場で5万ドルで売っていた場合、1ドル80円なら利益ゼロだが、1ドル100円なら利益は1万ドルだ。だから利益率は上がる。

しかし、価格引き下げで販売数量を伸ばし、輸出を増やし、生産を増やす、という行動には出ない。米国市場においては、5万ドルが最適な企業戦略価格だからだ。だから、輸出は伸びず雇用は増えないが、利益は増える。賃金は、この企業は上がる可能性はある。

もう一つのメカニズムは、より単純で、たとえば、この自動車会社の米国現地子会社の利益が年間10億ドルだったとすると、円換算が80円なら800億円、100円なら1000億円になるなら、2割増益になるからだ。この二つのメカニズムで、企業収益は大きく改善したのである。

先日、ある外資系証券会社の分析を見た。円安の企業収益に与える影響というものだった。輸出企業に限らず、企業全体である。輸入企業、内需企業は輸入コスト高で苦しくなるのは当たり前である。しかし、輸出と輸入、内需、すべての企業への影響をトータルすると、前述の増益の第一のメカニズムを考慮してもマイナスであることが判明したそうだ。つまり、モノの実際の輸出入では明らかに損失なのである。

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