一方でメディアでは、「急激な円安」というフレーズとともに、足元で進んでいる円安をうけて、「これ以上の円安は日本経済にとってあまり良くない」、という解説も増えてきた。
今のドル円レートは、均衡値からさほど乖離していない
110円前後の円安が、日本経済全体に悪影響を及ぼすとは到底考えられないのだが、ガソリンなど身の回りのモノの価格上昇という、「ミクロ視点」でしか経済現象が語れないメディアにおいて、こうした解説が多くなっている。
「筆者が1ドル110円程度では・・」と主張しても、「納得できない」という方も少なくないかもしれない。そこで客観的な指標を使って、検証してみよう。ドル円が、どの程度「円安(または円高)過ぎるのか」を判断するために、一つの基準となるのは、購買力平価によって試算したドル円の均衡値である。
購買力平価に基づくと、ドル円であれば、日本と米国の物価上昇率の格差によって動く。もちろんこれはあくまでドル円の均衡値に過ぎず、ドル円相場が実際にこのとおりに「サクサク」動くわけではない。
ただ、10年以上の長期間をたどると、為替相場の方向は、購買力平価のメカニズムでかなりの部分で決まる(物価上昇率が高い国の通貨は安くなる)。そして、輸出企業の価格競争力の観点から、現実のドル円相場が割高すぎるのか割安なのかを、この均衡値で判断することができる。
IMFが試算した購買力平価に基づくドル円の均衡値は、2014年時点で約102円である。8月半ばまでドル円が膠着していた時には、この均衡値と同じ水準だったわけで、2014年9月に入ってから、この均衡値から5~7円程度円安になっているに過ぎない。
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