ついに全米発売、「ゼロ・トゥ・ワン」の衝撃度 競争は負け犬がするものだ、独占せよ

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ティール氏は折りに触れて、世界を変えるようなイノベーションの大切さを説く。われわれの文明や文化は、「テクノロジーの進化が加速することを前提に成り立っている」からだという。だが大半の人々は、画期的なイノベーションが「起これば素晴らしいが、起こらなくても大した問題ではない」程度の認識だと、同氏は警鐘を鳴らす。

「たとえば、代替エネルギー。『これが世界で最も大切な問題だ』と考え、注力すれば実現するが、『放っておいても解決する問題』とみなせば、実現しない」(母校スタンフォード大学で行われたTEDxトークでの講演より)。また、ティール氏は、スタンフォード大学ロースクール卒業後、30歳でペイパルを創業するまで法律と金融の仕事に就いていた「回り道」の経験から、「新しいことを始めるのに待つ必要はない」(9月10日付フォーブス電子版、9月29日号掲載)と説く。

こうした持論の下、2011年には、20歳以下の大学生約20人に起業のための奨学金を与える「20 Under 20(トウェンティー・アンダー・トウェンティー)」基金を発足させた。「大学を中退すること」を条件とし、2年間で1人につき10万㌦(約1070万円)を支給する。中退を強いることへの批判に対しては、「起業がうまくいかなければ大学に戻ればいいだけの話で、さほどリスクはない」と、意に介さない。

これまで選ばれた奨学生の出身地は、シリコンバレーやニューヨーク、ソルトレイクシティといった国内都市にとどまらない。ロンドンやシンガポール、トロント、ニューデリー、北京など、グローバルだ。

一方、「よりリスクが大きい」のは、卒業後、多額の学生ローンを返済するために不本意な仕事を何年も続けることだと、ティール氏は言う(英誌エコノミスト主催のイベントでのビデオインタビュー)。借金に縛られ、やりたいことをやれず、若者が「未来を奪われる」ことの方が、はるかに大きな問題だという。

不毛な競争で消耗するな

誰も知らない、誰も試していないことは何か。まだ解決されていない問題は何か。既存のサービスや製品を後追いし、不毛な競争で消耗するより、10~20年先を見据えて計画を立て、世界を変えるイノベーションを興し、「ゼロから1」をつくり上げろ――。

カリスマ・ベンチャーキャピタリストの言葉は、はたして日本の起業家志望の若者たちの胸にどう響くだろうか。日本語版の『ゼロ・トゥ・ワン』は、9月27日に発売される予定である。

肥田 美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト

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ひだ みさこ / Misako Hida

東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身ニューヨークに移住。アメリカのメディア系企業などに勤務後、独立。アメリカの経済問題や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッツなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ベストセラー作家・ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネア起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長(英国)など、欧米識者への取材多数。(連絡先:info@misakohida.com)

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