「お約束の展開」とは違う、ひきこもり男性の実話 「変わらない自分」を引き受けるという道

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「震災で思い出の品も、娘の晴れ着も全部流されました。だけど服などの支援はたくさんいただきました。もう支援はけっこうです。ただ、誰かが私に会いに来てくれるだけいい。それだけでいいんです」。そう言っておばあさんは涙を流し、嗚咽をくり返して、声を絞り出すように中村さんに伝えました。

「あなたがここに来てくれて、うれしい」。

中村さんには気持ちが痛いほどわかりました。「ひきこもりの僕と同じだ」と思ったからです。

ひきこもりの自分は働けない。何もできない。価値もない。そう自分を責めながら家のなかで6年間、必死でもがいて苦しんできた。ずっと孤独だった。今、目の前にいるおばあさんも同じように孤独のなかを苦しんでいるのではないか。そう思うと、ぐっと胸が締めつけられる。

帰り際、おばあさんは「これしかできることがないけど」と言って缶ジュースを4本、中村さんに手渡して、にっこり笑ってくれたそうです。

私の勝手な憶測ですが、おばあさんの気持ちは、とても救われたのでしょう。話し相手が誰でもよかったわけではありません。おばあさんの心の痛みに中村さんが強く共感したからです。

私は不登校やひきこもりの取材を長く続けてきましたが、本当に人を救うのは「共感」だと思っています。医者が出す薬よりも、専門家のアドバイスよりも、誰か1人でもその人の痛みに心を寄せてくれる。共感されて救われたというケースを何度も聞いてきました。中村さんは、そのひきこもり経験によって被災者の1人の心を軽くすることができたのです。

活動に指針が

中村さんはおばあさんとの出会いに今後の活動のヒントを得ます。一連の話を聞いたボランティア仲間も「被災者の気持ちを聞くのもボランティアです」と道を示してくれました。その後、中村さんは多くの被災者の声を聞くようになります。「ひとりでいると震災のことを思い出す」「知り合いをつくるのが難しくてさびしい」、訪問先でそんな声を聞くたびに魂が揺さぶられました。

何かできるわけではないが気持ちは聞く。そんな中村さんの活動に救われた人もいたことでしょう。

被災地に到着してから3カ月後、ボランティアセンターを去る日が来ました。その日は、たくさんの仲間たちから「おつかれさま」「ありがとう」と声をかけられ見送られています。帰りの新幹線、中村さんは思わず涙しました。「僕はどれだけの人に感謝をすればいいんだろう」「どれだけの勇気をもらったんだろう」。そう思うと涙がとまらなかったのです。

あれから10年。戻ってきた中村さんは何をしてすごしているのか。じつは、ここからが最大のポイントです。ひきこもっていた青年が感動的な経験をしたあと、どうなるのか。

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