「お約束の展開」とは違う、ひきこもり男性の実話 「変わらない自分」を引き受けるという道

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ありきたりな展開を言えば、働いたり、夢に向かって勉強を始めたりします。しかし中村さんの場合は、それまでと同じようにひきこもり生活を続けました。何度か派遣の仕事をしたり、ひきこもる人たちの居場所を見つけたりもしましたが定職には就いていません。ただし変化もありました。

「ボランティアへ行く前と後では、あきらかに『ひきこもりの質』が変わりました。それまでは、自分を責めてもがいて、いつ自分から死ぬかもわからないような状況でした。でも、ボランティアから帰ってきて『ひきこもりながら生きていこう』と。もちろん不安もありますが、無理に不安を解決するのはやめよう、と。そう思えたので、穏やかにひきこもれています」。

ひきこもっていた青年がボランティア生活で持ち帰ったものは「穏やかなひきこもりの日々」でした。安心してひきこもるために見つけた五カ条もあるそうです(下図参照)。ひきこもりが続いたのなら「状況が悪くなった」と思う人がいるかもしれませんが、私の捉え方はちがいます。これが「日常」というものなんだと思います。

被災地で起きたことは非日常であり、非日常のなかでは特別なことも起きます。日常に戻れば、またいつもの自分に戻っていくわけです。劇的なことがあっても、人の性分までは変えられません。もう一歩踏み込んで言うと「自分を変える」ことをあきらめて、変えられない自分を引き受ける。そんな心境の変化によって、穏やかな日常を手にいれたのではと思うのです。

話は逸れますが、世間には「どう変わるべきか」という情報があふれています。生活スタイルをどう変えれば、よりよい生活になるのか。人への話し方をどう変えれば仕事の能率が上がるのか。子育ての方法をどう変えれば子どもの学力は上がるのか。

そのメッセージの一つひとつを否定する気はありませんが、裏を返せば「変わらないとダメ」「変わろうとしない人はもっとダメだ」と言われている気になります。

中村さんのように「変わらない自分」を引き受けること。これも生きづらさを突破するカギになるかもしれない。幸せに向かう1つの方法かもしれない。そう思うのです。

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また、不登校、いじめ、ひきこもりに関するニュース、学校外の居場所情報、相談先となる親の会情報、識者・文化人のインタビューなども掲載されています。紙面はすべて「親はどう支えればいいの?」という疑問点から出発していると言えます。

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