「仕事に集中できる人」「先送りする人」の決定的差 「やる気さえあれば集中できる」という大誤解

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やる気にまつわる心理学の知見として近年注目されているのが、外から与えられる動機ではなく、私たちの内側からあふれ出る動機です。

人が完全に作業に没頭し、大きな喜びを感じて問題を解決している状態について長年研究してきた心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏は、この現象を「フロー」あるいは「ゾーンに入っている」と名付けています。

フローに入った人は、作業そのものが楽しくやりがいのあるものだからこそ実行していると捉えられる、いわば「やる気」を自家発電している状態に達していますが、これは外的な理由で作業をするのとは逆の、内在的動機付けに突き動かされている状態と呼ばれています。

私たちがやる気を感じられる3つの条件

こうしたフローの状態に入るにはさまざまな条件が必要であることが研究でわかっていますが、特に重要なのが「チャレンジ・スキル・バランス」と呼ばれる、タスクの難易度と、自分自身のスキルとのバランスです。

タスクがあまりに難しく、スキルに対して無理なことを要求されているように感じるとき、人は不安に陥ります。逆にタスク自体が簡単すぎて、手応えがない場合には退屈が生まれます。

内在的動機付けが高まっている状態とは、タスクが明快で、やる意味が明確に感じられ、自分のスキルに対して過不足のない、バランスのとれた場所といっていいのです。

ダニエル・ピンク氏は著書『Drive』のなかでこれらの研究を総括して、私たちがやる気を感じられるのは、

①能動的にタスクを選び取り、いつ、どのような手段で実行するのかについて裁量が与えられている
②タスクそのものに不安や焦燥感を感じるのではなく、成長や達成感が感じられる
③より大きな目的に寄与している実感がある

の3条件をクリアしているときだと説いています。これらの条件は、ライフハックにおける基本的な考え方と整合していることに注目してください。ライフハックは、自分の裁量で時間の使い方を選び、長い目でみた目標に基づいてタスクを整理し、目的に合わせてツールを選ぶ能動性を重視しますが、これらは作業に対するやる気を支えるためでもあったのです。

これに加えて、日常の作業におけるチャレンジ・スキル・バランスが破綻しないことが大切ですが、これを最も脅かすのが、仕事の作業が別の誘惑による脱線や、心理的な不安が高まることによって生まれる先送りのせいで時間の余裕が失われた状態です。

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