今年最大の経営バズワード「パーパス」の本質 「新しい資本主義」の先の成長モデルを考える

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したがって、国連のお墨付きのSDGsや、広く世の中にある社会課題を拾い上げても、パーパスにはならない。「持続可能性(サステナビリティー)」は存在条件であっても、存在意義ではない。パーパスには、客観性ではなく主観性が求められるのだ。筆者は前者を規定演技、後者を自由演技と呼んでいる。

パーパスで企業価値を高めたソニー

日本におけるパーパス経営の代表例として、ソニーを取り上げてみよう。

同社は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げている。いかにもソニーならでの志だといえるだろう。

そもそも「感動」には、ソニー創業以来の思いが凝縮されている。SDGsの17の目標には、「感動」の2文字はない。しかし、暗雲垂れ込める世界が真に求めているのは、通り一遍の豊かさやウェルビーイングではなく、心が躍る瞬間なのではないか。それがソニー独自の主観正義である。

その感動を、「クリエイティビティー」と「テクノロジー」で紡ぎ出していく。これこそ、ソニーならではの自由演技である。アップルやディズニーはクリエイティビティー、グーグルやサムスンはテクノロジーに軸足を置いており、双方を高いレベルで追求し続けているのは、世界広しといえどもソニーだけだからだ。

ソニーは、そのパーパスを基軸に、自社独自の価値創造ストーリーを描いている。ソニーの志の先には、ユーザーとクリエイターが近づく世界がある。そして、ソニー自身も10億人のユーザーとクリエイターに近づいていく。

ただし、GAFAやディズニー、ネットフリックスのように、自らの世界に囲い込もうとはしない。これらのプレーヤーとも自在に組みながら、その先にいるユーザーとクリエイターのマインドシェア(心の占有率)をつかもうとする。今や批判にさらされている勝者独り勝ちモデルを超えた、開放型の生態系をめざす高度なブランド戦略である。

そして、そのようなパーパスを実現するうえでソニー独自の資産が、「人」と「技」だ。前線のブランドとネットワークに加えて、人財と知識という当社ならではの無形資産をフル活用した次世代型の経営モデルである。

これらの資産を基盤として、6つの事業群がポートフォリオとして編集されている。コンテンツ、ブランデッド・ハードウェア+CMOSイメージセンサー、DtC(顧客との共創)、車載センシング、メディカル、金融の6事業である。

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