今年最大の経営バズワード「パーパス」の本質 「新しい資本主義」の先の成長モデルを考える
そして、そこに描かれているのは、「人」を目的語として、「人の心を動かす」「人と人をつなぐ」「人を支える」といったソニーならでは動的プロセスである。これらが一体となって、ソニー独自の価値を創造していく。
これまでソニーは、金融市場では「コングロマリット・ディスカウント」にさらされてきた。サードポイントという名うてのアクティビストからは、2回にわたって事業分割を迫られた。1度目(2013年)はコンテンツ事業、2度目(2020年)はCMOSセンサーが標的となった。しかしソニーは、サードポイントの主張を2回とも見事に退けた。
2021年4月に「ソニーグループ」へ商号を変えたソニー。今では、パーパスを基軸とした価値創造ストーリーが金融市場からも支持され、「コングロマリット・プレミアム」を獲得している。10年前は1を多く割り込んでいた同社のPBR(株価純資産倍率)は、2021年12月には3を超えるまでに上昇している。
パーパスは、単なるうたい文句ではない。社員1人ひとりがパーパスを自分ごと化し、顧客がパーパスに共感し、そして、パーパスがもたらす将来価値に株主が気づけば、企業価値を確実に高めることができるのである。
パーパス実現のための3つの駆動力
ではなぜ今、改めてパーパスが必要とされているのだろうか。
VUCAと呼ばれる時代である。垂れ込めた暗雲がいつ晴れるのか、そして、その先にどのような未来が待っているのか、皆目見当がつかない。
新種の武器となったビッグデータも、残念ながら役に立たない。データはしょせん、過去と現在の残像でしかなく、非連続な未来を予測することはできないからだ。
「未来を予測する最も確実な方法は、それを発明することだ」とは、パーソナル・コンピューターの生みの親アラン・ケイの名言である。デジタルの達人だからこそ、デジタルの限界がよくわかっていたに違いない。
先が見えない中で未来を拓いていくには、自らの志が唯一の羅針盤となるはずだ。成長の限界に直面している今こそ、企業はまず立ち止まって、未来に向けたパーパスを北極星として高らかに掲げ直す必要がある。
ただしパーパスは、SDGsなど、外から借りてきた目標ではなく、自らの思いが凝縮されたものでなければならない。そのためには、3つの要件が必要となる。
1つ目が「ワクワク」。社員、そして顧客、さらには株主の志を躍動させるようなパワーが求められる。
2つ目が「ならでは」。その企業独自のこだわりを、自由演技としてのびやかに表現する必要がある。
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