今年最大の経営バズワード「パーパス」の本質 「新しい資本主義」の先の成長モデルを考える

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社外に向けては、顧客、パートナー、コミュニティー、株主などと、パーパスをテーマとした対話を、丁寧に実践していく。そのためには、ブランディング、マーケティング、PR、IRなど対外コミュニケーションを担う部門が一体となってコアとなるパーパス・ストーリーを練り上げ、それを対話の相手に応じて多彩に展開するプロセスが必須となる。

将来のための「未」財務指標

3つ目のステップが、パーパスの成果のモニタリングである。昨今はやりの統合報告書では、財務指標と非財務指標を併記することが、「お作法」となっている。

しかし、それでは単なる「貼り合わせ報告書」にすぎない。非財務指標を将来の財務指標に組み込みことによって、初めて本来の「統合」の目的にかなうはずだ。

そこで筆者は、非財務指標とは呼ばず「未(プレ)」財務指標と呼んでいる。ESGというきわめて曖昧なバズワードの下、各社は勝手な指標を並べ立てている。

しかし、将来の財務指標に本質的なインパクトをもたらす未財務指標は、2つに集約される。社員のエンゲージメント指数と、顧客のブランド指数の2つである。

パーパスを自分ごと化した社員は、生産性は2倍以上、そして創造性は10倍以上になるという研究結果が報告されている。「やらされ仕事」が「天職」に変わるからだ。アマチュアとプロのパフォーマンスの違いといってもよいだろう。

そして、パーパスに共感した顧客はファンとして定着するだけでなく、自分の周りにも共感の輪を広げてくれる。そのような顧客群は、企業と一体となって新しい価値を共創するプロセスに参加してくれるようになる。

企業は大きく、3つの市場に向き合っている。人財市場、顧客市場、金融市場だ。しかし、これらは相互に独立した市場ではない。まず人財市場においてエンゲージメントが高まることで生産性や創造性が高まり、顧客市場においてブランド共感度が高まり、その結果、企業の財務パフォーマンスが高まるのである。

世の中に流布し始めている「マルチステークホルダー資本主義」は、各ステークホルダーに個別に向き合おうとする段階で、大きな落とし穴に陥っている。パーパス経営の先進企業は、この3つの市場の因果関係をしっかりと見据え、パーパスの輪を、社員、顧客、株主へと、その順番で広げていくことを経営の根幹においているのである。

変化が常態化する中では、変化を先取りし、自ら変化することに喜びを感じられる企業だけが生き残る。そのためには、自社ならではの志(パーパス)を北極星として高く掲げつつ、大きく一歩踏み出す(ピボット)勇気を持ち続けていただきたい。

名和 高司 京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール客員教授

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なわ・たかし / Takashi Nawa

1980年東京大学法学部卒業、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)。その後、約20年間、マッキンゼーのディレクターとしてコンサルティングに従事。10年より一橋大学教授。22年より現職。ボストン コンサルティング グループ、アクセンチュアのシニアアドバイザー、ファーストリテイリング、デンソー、味の素などの社外取締役を歴任。現在、SOMPOホールディングスの社外取締役、朝日新聞社の社外監査役など。著書に『パーパス経営』(東洋経済新報社)、『超進化経営』(日本経済新聞出版社)、『問題解決と価値創造の全技法』(ディスカヴァー21)などがある。

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