今年最大の経営バズワード「パーパス」の本質 「新しい資本主義」の先の成長モデルを考える

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パーパス経営の基本的な考え方から、経営現場への浸透のための手順を具体的に紹介します(写真:meepoohyaphoto/PIXTA)
2021年に流行したマネジメント用語の1つが、「パーパス」であることは間違いないだろう。ミッション、ビジョン、バリューの上位概念として、「自分は何のために存在するのか」、そして「他者にとって価値のあることをしたい」という信念を意味している。組織や企業の存在意義を問い直す言葉だ。
しかし、こうした考え方は、日本の企業が昔から「志」といった言葉で、強く持っているものだ。これからは、志に基づく顧客資産、人的資産、組織資産などの目に見えない資産をいかに蓄積していくかが経営のカギとなる。
「パーパス」ブームのきっかけの1つとして、今春に刊行され、話題になった名和高司氏の『パーパス経営』が挙げられる。本稿では、日本を代表する企業のアドバイザーを長く務めてきた著者の名和氏が、パーパス経営の基本的な考え方から経営現場への浸透のための手順を具体的に紹介する。

2021年は「パーパス元年」

2021年は、コロナ禍、自然災害、そして米中対立という暗雲が垂れ込めた年として記憶されるだろう。そしてそれらは2022年以降にも、不可逆な変化を世界にもたらし続けるに違いない。

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そのような世相にもかかわらず、いや、それだからこそ、新しい未来に向けた探求が始まった年でもある。世界で、そして、日本においても「持続可能性(サステナビリティー)」が経済の基本要件として定着しつつある。

また、「資本主義の再構築」(ハーバード・ビジネススクール)、「マルチステークホルダー資本主義」(世界経済フォーラム)、「新しい資本主義」(日本政府)などが声高に唱えられ始めている。

しかし、それらはしょせん、資本主義の延命策でしかない。その中で、資本主義を超える新たなモデルが登場してきた。

たとえば、「幸福主義」。SDGsの3番目にも、「ウェルビーイング」、すなわち幸福の追求がうたわれている。1人ひとりが心を豊かに過ごせる世界は、古くから理想郷(ユートピア)として憧れられてきた。

あるいは、「脱成長主義」。政府や企業が主導する成長を否定し、市民が生活主権を取り戻す「脱成長コミュニズム」はその代表例である。労働者を生活者に置き換えた新共産主義ともいえるだろう。

しかし、現実や成長に背を向けている限り、貧困や病気などといった「不」の克服は困難だ。そもそもそのような現実逃避型のストレスフリーな世界が、人間性の復権をもたらすのだろうか。たとえば最近の「働き方改革」は、個人の成長機会を奪う「ゆるブラック企業」を量産してしまっている。

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