「好物は最後に食べる」派の5歳少女に起きた事件 父への食べ物の恨みは、形を変えて今も残る

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5
拡大
縮小

なお、最近は婚活中だと言う香織さん。アプリで出会った男性たちとアポを重ねる日々なわけだが、そうなると必然的に食事を共にする機会が増える。

「ガツガツ食べる人が苦手なんです。そういうのを『男らしい』と思う人もいるんでしょうけど、きっと『奪われるかも……』って防衛本能が働いてしまうんでしょうね。だから、きれいに、丁寧に食べる人が好きなのかも」

そして、ため息をつきながらこんな感想を漏らした。

「思えば、食事ってすごくパーソナルな部分ですよね。それぞれ違う趣味嗜好があり、食事スタイルの異なる家庭で育っているわけですから。『食の好みが合うかは大事だ』って婚活ではよく言いますけど、好みだけじゃなく、食べ方とか、食べる量、食べるスピードとかも大事だと思うんですよね」

ウインナー事件のその後

このようにして、骨付きウインナー事件で生まれたトラウマが、四半世紀を経た今でも形を変えて、婚活にまで影響を及ぼしている香織さん。今後もしばらく悩みそうな雰囲気だが、ところでウインナー事件については、実は父が本格的な和解を試みたことがあったという。

「あのクリスマスから5年後、お父さんにドイツ出張の機会が回ってきて、現地で買い付けた大量のウインナーを自宅に送ってきたんです。白い骨付きウインナーだけじゃなく、いろんなウインナーがありました。量が多すぎて5人家族では到底消費することができずに、近所の人に配って歩いたんですよ」

5歳の娘を泣かせてしまったことが、お父さんとしてはよほどショックだったのだろう。思わず微笑ましく思えるエピソードだが、そのときすでに10歳になっていた香織さんは「正直、今更感はありましたよね」と振り返る。

「1年とか2年だったら気持ちも違ったと思うんですけど、5年という時間は、傷を癒やすには少し遅かったようです。白い骨付きウインナーが、10歳になった私にはもう、そこまで魅力的に思えなかったんです。たぶん、年齢を重ねたことで、骨付き肉への憧れが薄まっていたんでしょうね。なんかあるじゃないですか、子供のときってそういうの(笑)」

『ONE PIECE』好きな筆者としては、なんだか妙にわかる、話のオチ方であった。

ちなみにこのウインナー事件は、井上家のなかで「こすり倒された話」で、ウインナーをくれた同僚の話題が出るたびに、ずっと笑い話として語られてきたという。

たった一度のミスが四半世紀も家族にイジられるお父さんは「気の毒」の一言だが、まさに『食い物の恨みは恐ろしい』という格言通りである。食べ方や、食べる量、食べるスピードは人それぞれで、だからこそ自分が早く食べ終わり、他の人の分が食べたくなったときは、きちんと言葉にして言うべきなのだろう。食事というのは、それだけパーソナルな事柄なのだ。

本連載「忘れえぬ『食い物の恨み』の話」では、食べ物にまつわる積年の恨み、トラウマをお持ちの方からの体験談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
岡本 拓 編集者・ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Taku Okamoto

編集者・ライター。早稲田大学文化構想学部卒。ソーシャルゲーム会社(半年)、某ネットニュース編集部(4年)を経て、フリーランスに。2021年12月から東洋経済オンライン編集部のメンバー。「奨学金借りたら人生こうなった」「チェーン店最強のモーニングを探して」などの連載を担当。会社四季報では外食業界を担当。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT