――最新型「アイサイトX」のルーツですね。ただ、ここに至るまで、ステレオカメラ単体、ミリ波レーダーとの融合、LiDARへの転換と一通りの手法を実用化されてきましたが、主センサーをステレオカメラ単体に絞った理由はどこにあるのでしょうか?
柴田:性能を向上させること、これはとても大切ですが、同時に経済・投資効率も考えなければなりません。ステレオカメラからスタートし、途中、融合型や別センサーにも着手/実用化したなかで、スバルの独自技術を量産化することが安全に資する、これが重要だという総意に至りました。
――そこで「ステレオカメラを極めよう!」となったわけですね。
柴田:そうです。センサーとしてのステレオカメラをスバルの独自技術にしていくのだという信念を込め、これまでたくさん投資を行ってきました。そして技術に対する将来性も見えてきたことからステレオカメラ方式による先進安全技術をアイサイトとして整え、実用化しました。
――2010年の「アイサイト・バージョン2」では相対速度差30km/h以下であれば完全停止(衝突回避)まで実現する衝突被害軽減ブレーキを備え、2014年での「アイサイト・バージョン3」ではステレオカメラをこれまでのモノクロからカラー対応させることで、相対速度差を50km/h以下にまで拡大するなど着実に進歩を遂げました。
柴田:一丸となってステレオカメラの開発を進めてきた成果の一つとして、衝突被害軽減ブレーキの機能向上が果たせました。ただ、同時に対応できるシーンを増やしていくためにはハードウェアであるステレオカメラだけでなく、解析するソフトウェアの開発を早期化することが新たな課題になってきました。
じつは、ステレオカメラのセンサー能力をフルに使えるようになると、これまでと同じ時間軸でソフトウェアの開発を行っていたのでは間に合わなくなってきます。言い換えれば、ハードウェアの性能を引き出すのはソフトウェアの性能である、そんな時代に突入してきたわけです。
ソフトウェアの進化を早期化
――最新のアイサイトXでは、さらにソフトウェアが重要になっていくと。
柴田:そうです。AI開発拠点「SUBARU Lab」を立ち上げたのは、ソフトウェアの進化を早期化するという理由もあります。アイサイトをもっと知能化させるには、AIをどんどん開発フェーズに採り入れていく必要があります。これはアイサイトで対応できるシーンを増やしていくためにも重要です。
――事故回避シーンを増やすためにソフトウェア開発を早期化するともいえますね。ただ、それだけ優位性のあるステレオカメラですが、自動車業界においては先進安全技術センサーの主力ではないようです。そこをどうお考えですか? スバル以外では、メルセデス・ベンツが主センサーとして活用していますが……。
柴田:確かに先進安全技術の世界では、ステレオカメラ方式はマイナーな存在です。ただ、その理由は明確です。距離を正確に計測する、さらに物体の大きさも把握したい。この2つの要素だけを切り取ると、ミリ波レーダーと単眼カメラの組み合わせがコスト的にも普及しやすいからです。
ミリ波レーダーは技術革新により、これまでのスキャン方式で用いていたメカニカル部分が省かれたことで、ずいぶんとコストが安くなりました。単眼カメラにしても画像処理は半導体の進化に歩調を合わせます。ですので、投資効率からすればミリ波+単眼カメラの組み合わせはひとつの回答になります。
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