グリーンスパンの回想録『波乱の時代』には、このことを記述した箇所がある(第20章)。そこで彼は、長期金利が低下しているのは、期待インフレ率の低下が主要因であるとしている。すなわちITの進歩、それを用いた海外アウトソーソング、冷戦の終結、中国の工業化などの要因により、予想インフレ率が低下した。このために金利が低下したのだというのである。
なお、05年2月の議会証言の後、グリーンスパンの執務室には、ラベルに「謎」と書かれたワインが何本も届けられたそうだ。「しかし、私の戸惑いが解消することはなかった」と彼は書いている。
経常赤字は増加し続け 貯蓄率は低下し続けた
一方、現実の世界では、経常赤字の増大と家計貯蓄率の低下現象が、「異常」と言える状況にまで進行しつつあった。
経常収支赤字を縮小させるには、過剰消費を抑える必要がある。しかし、個人消費は高い伸び率で増加しつつあった。そこには金融引き締め効果はほとんど見られない。そしてアメリカの家計の貯蓄率は、ついにマイナスを記録するまでになった。
アメリカがこうした異常な状態を継続できたのは、海外からの資金還流が続いていたからだ。外国の政府と民間投資家によるアメリカ証券長期投資の買い越し額は、経常収支の赤字を上回った。
この状況を見れば、巨額の海外資金流入が長期金利の上昇を抑え、資産価格の高騰とバブルをもたらしていると考えるのが自然だろう。