(第25回)グリーンスパンのConundrum(謎)


 ところが、グリーンスパンは、経常赤字の拡大を異常な事態、あるいは重大な事態とは考えていなかったようなのだ。

『波乱の時代』では、「アメリカの経常赤字拡大の主たる要因は、ホームバイアスの大幅な低下(によって海外からの対米投資が増えたこと)と、アメリカの生産性の伸びの大幅な加速にある」「対外収支の調整は不可避だが、ドル暴落などの国際的な金融危機をもたらすものにはならず、穏やかなものになるだろう」と述べているのである(第18章、第25章)。日本や中国の為替介入を問題視して警告したにもかかわらず、なぜ国際的な資本移動が異常な状況になっていることを重視しなかったのだろうか?

また、05年3月には、資産価格の上昇を「根拠なき行動」(irrational behavior)であるとして、強い警告を発している。さらに、住宅資産価値の上昇を活用したモーゲッジローン借り換えによるキャッシュアウトが消費を増やすことの研究も行っている。それにもかかわらず、なぜそれらを国際的な資本移動と関連づけなかったのだろうか?

彼が「謎」と呼んだ現象は、日本や中国の為替政策によって引き起こされた現象であると、なぜ考えなかったのだろうか?

彼は、「他国の通貨当局、最初は日本の、ついで中国の金融当局が、自国通貨の上昇を抑えるために、大量にアメリカ国債を購入した結果、ドルの為替相場が上昇し、それによりアメリカの輸入が急増したとの見方がある。この主張にはたしかにいくらか正しい面はあるが、私の経験では金融当局による為替操作の効果は、往々にして誇張されている」と書いている。

私には、むしろこの記述のほうが「謎」に思われる。

■関連データへのリンク
アメリカ国債の利回りの推移



野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(週刊東洋経済2010年7月31日号 野口氏写真:今井康一)
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