アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長(当時)は、2004年3月、拡大を続けていた日本政府・日銀のドル買い・円売りについて、日本経済の回復と相容れなくなっていると批判した。これと同時に、中国に対しても、ドル買い介入で大量の人民元が市場に放出されれば、金融緩和が過剰になると警告した。そして、3カ月後の6月から17回の連続利上げを行ったのである。
しかし、この過程で不思議な現象が起きた。金融引き締めの初期段階では、長期金利が上昇するのが普通だ。このときも、最初の数週間は確かにそのとおりのことが生じた。10年債の利回りは、約1ポイント上昇した。
しかし、6月になると、長期金利が低下し始めた。利上げ直前に4・8%台まで上昇していた10年物国債の利回りが、利上げによって逆に低下してしまったのだ。10月には4・1%台まで下落した。アメリカのみならずヨーロッパでも、長期金利は歴史的な低水準になった。
しかも、これは一過性のものではなかった。同じ現象が05年に入ってからも生じたのである。利上げ誘導を10回も繰り返して、FFレートが04年央の1%から3・5%まで上昇したにもかかわらず、長期金利が一向に上昇せず、むしろ低下傾向を示したのである。
起こりえない現象に直面して困惑したグリーンスパンは、05年2月の議会証言で、この現象を「謎」(Conundrum)と表現した。
フラットになったイールドカーブ
グリーンスパンが問題にした現象は、「イールドカーブ」という概念を用いて議論される。これは金利の期間構造を表すものである。横軸に期間、縦軸に金利をとった図で、通常は右上がりの曲線が描かれる。つまり、長期金利は短期金利より高いのが普通だ。
イールドカーブは、大変重要な分析手段であるにもかかわらず、日本ではあまり一般に使われていないので、なぜ「イールドカーブが通常は右上がりなのか」について簡単に説明しておこう。