いま、10年の期間にわたって借り入れが必要な人がいるとし、この人には、1年間の借り入れを行って借り換えを繰り返すか、10年間の長期借り入れを行うか、という選択肢があるとしよう。将来の金利がどうなるかを現時点で確実には予測できないので、短期借り入れの借り換えを行う場合には、金利の支払額には不確実性がある(リスクがある)。
仮に将来の金利が低下すれば、長期借り入れの方法をとった場合に比べて支払額は少なくなるだろう。しかし、将来の金利が上昇すれば、金利支払いに苦しむことになる。どちらの可能性もあるのだが、この人が危険回避者であれば、金利上昇の危険をより重視するに違いない。その結果、10年間の長期借り入れの金利が高くとも、それを受け入れるだろう。
資金を貸し付ける人の立場からいうと、将来の金利が低下する危険を回避したいので、仮に長期貸し付けの金利が低くても、それを受け入れる。ところで、リスク回避需要は借り手のもののほうが強い。したがって、市場金利では、長期金利が高くなる。これが、イールドカーブが右上がりになる理由である。
将来の金利が予測し難いほど(不確実性が大きいほど)、長期金利は高くなるだろう。将来の金利が高くなる確率が高いと考えられる場合も、長期金利は高くなるだろう。
金融引き締めが開始された時点では将来の金利上昇が予測されるから、長期金利は高くなる(イールドカーブの傾きが急になる)はずなのだ。それにもかかわらず、長期金利が低下したので、グリーンスパンは困惑したわけである。
アメリカのイールドカーブは、期間2年で4%台だが、30年でも4%台半ばといった状況になった。イギリスでは、むしろ緩やかな下降を描くような状況にまでなってしまったのだ。