西郷の暴走の責任をとるかたちで、謹慎処分を受けた大久保だったが、その期間はわずか数日で、久光とともに京に上っている。にもかかわらず、寺田屋事件で大久保は目立った動きをしていない。後始末には追われたものの、事件自体には、ほとんど関与しなかったようだ。
無残な同士討ちの末、ある同志は命を落とし、ある同志は帰国を命じられた。そんななかで、大久保は何のお咎めも受けてはいない。もはや大久保が精忠組の一員だと久光はみなさなかったし、大久保も彼らと距離をとっていたからだろう。
数日とはいえ、謹慎を受けていたことをうまく利用して、気配を一時的に消したのだと筆者は思う。こういう器用な振る舞いが、西郷にはできなかった。これもまた大久保が嫌われ、西郷が好かれる要因だろう。
大久保はいつでも「実」をとった
組織において暴走しがちな仲間というのは、時に敵よりも厄介だ。だから、行きすぎた同志や道を違えた仲間を切り捨てて、前に進まなければならないときもある。
だが、それができずに苦しみ、たとえ滅びることになっても、不器用に運命をともにする。そんな西郷のような生き方に人は魅了されるが、現実を動かすには及ばない。
大久保はいつでも「実」をとった。やらなければならないことがある。そのためにただ邁進する。かつての仲間から失望されようとも構わない。そういう実行力の高さにおいては、久光と大久保は似ていたのかもしれない。2人は、朝廷の後ろ盾を得て、幕政改革へと邁進していく。
江戸幕府に要求を呑ませるため、大久保は久光、そして、公卿の大原重徳ともに江戸に向かう。32歳の大久保にとって初めての江戸は、幕府との激しい攻防の舞台となった。
(第8回につづく)
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【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
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