2番目の理由は、コロナからの回復過程で国際商品価格の上昇が始まったことだ。とくにエネルギー価格の上昇が顕著である。なぜそんなことになるかというと、性急な「脱炭素」政策によるところが大である。
いわゆるESG(環境・社会・ガバナンス)投資により、化石燃料の開発にはお金が回らなくなっている。エネルギー業界としては、長期の開発投資を止めざるをえない。それで石油や天然ガスの値段は上がる。喜ぶのはOPEC(石油輸出国機構)やロシアなどである。他方、再生可能エネルギーはそんなに急には普及しない。なおかつ、使い勝手もよくないのである。
燃料価格の上昇は、穀物などほかの国際商品の値段にもダイレクトに影響する。日本でも大豆商品を使った食品価格が上がっているのはご案内のとおり。COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は終わったばかりだが、今のような「直線的アプローチ」の脱炭素政策を続けているかぎり、この状況は変わらないだろう。日本も輸入インフレを警戒する必要があるということになる。
3番目の理由は、労働コストが上がってきたことだ。アメリカの雇用回復が遅れているのは、景気対策による失業手当の上乗せ金が多すぎるからだ、てな批判が以前からあった。今年9月に上乗せ金はさすがに失効したのだが、なおも労働市場に戻ってこない人たちが大勢いる。
ゆえに労働参加率は、コロナ前の水準にはなかなか戻らない。1つには、コロナ禍を機に完全にリタイアしてしまった高齢者がいる。長引くロックダウン(都市封鎖)生活で、人生観が変わった人たちもいる。仕事よりも家族と一緒にいる時間を大切にしたい、通勤なんてもう嫌だ、もっと条件のいい仕事を探したい、などと「選択的失業」が増えている。
結果として雇用主は賃金を上げざるをえない。いや、さすがはアメリカ。本気で賃上げを目指すのなら、こんなふうに実力でもぎ取りたいものだ。くれぐれも「成長から分配へ」などと、お上のお慈悲にすがっているようでは、収入増はおぼつかないですぞ。
他方、「さすがのアメリカ人も貯金が減ってくれば、徐々に職場に復帰するだろう」との見立てもある。賃金インフレが続くかどうかは、コロナの感染状況など、今後の推移を見なければわからないというのが正直なところである。
もしもブレイナード理事がFRB議長になったら?
さて、本稿が配信される前後には、来年2月3日で任期を迎えるパウエル議長の後任人事が公表されるはず。今のところ、パウエル議長続投とラエル・ブレイナード理事の昇格が50%ずつといったところだ。バイデン大統領としては、現状でいいとみれば続投、党内左派のご機嫌取りが必要であるならブレイナード氏を選ぶといった感じだろうか。
とはいえ、ブレイナード理事はパウエル議長以上のハト派とみられている。古い言葉だが「インフレファイター」という選択肢は存在しないのだ。そしてバイデン政権は、インフラ投資法案1.2兆ドルを超党派で成立させたが、さらに1.75兆ドルのBBB法案(Build Back Better)を通したい構えである。
インフレ到来というリスクを、はたしてマーケットはどの程度織り込むべきなのか。しばらくは悩ましい季節が続きそうである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。
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