「運命をともにした竹馬の友」
西郷と大久保はそのように語られることがある。だからこそ、西南戦争で2人が対立したときに勝利した大久保は批判にさらされ、不人気ぶりに拍車をかけている。
だが、生まれた境遇や、立身出世を果たしたことは似ていても、2人はむしろ「すれ違っている」期間のほうが長い。そして3歳年の差がある2人は、兄弟のような屈託のない仲のよさというよりも、しのぎを削ったライバルのような緊張感が漂っていたのである。
西郷が戻ってこられるように久光を説得した大久保
側近に抜擢された大久保は、日本が抱える現状の問題点と今後の見通しについて、薩摩藩の同志である伊地知貞馨(いじち・さだか)にこんなふうに述べている。
「わが国はかつてない危機に直面している。朝廷は攘夷にこだわり、幕府には定見がないから、遠い未来を見据えた計画が立てられていない。だから今、有力藩が立ち上がらなければならない」
薩摩藩の藩主を奉じながら上京を果たし、朝廷の命のもと幕府を改革しなければならない。亡き斉彬の悲願でもある、この上洛プランを実現するためには、西郷の力が必要だと、大久保は考えていた。
西郷が島から戻ってこられるように久光を説得する大久保。得意とした粘り強い交渉が実を結び、文久元(1861)年、大久保が久光の側近に抜擢された年に、西郷は鹿児島へと戻ってくることができた。
西郷にとっては3年ぶりの鹿児島である。大久保からすれば、これでようやく2人で藩政を動かせると心躍ったことだろう。しかし、2人はまたすれ違うことになる。このときまだ大久保は、西郷という人物の底知れない「ややこしさ」を甘くみていたのであった。
(第5回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(?中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
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