電力以外の分野が求められる対策レベルの高さ
電力以外の分野が求められる措置はもっと厳しい。例えば産業分野でいちばんCO2を出す鉄鋼業界では、鉄の還元剤に使うコークスを別のものに転換させる必要に迫られている。まだ技術的にも確立していないが、水素還元による方法が有力とされている。
その場合、700万トンという先ほどの水素発電用以上の水素量が必要になるが、求められるコストレベルはさらに問題だ。現在、2050年の水素の価格はCIFベースで20円/N立方メートルにするという政府目標が示されている。チャレンジングではあるがこれが達成できると水素発電は実現化が見えてくる。ところが、鉄鋼で求められる水素の価格は約8円/N立方メートルという厳しいレベルなのである。
その他、産業分野で2番目に炭素排出量が多い化学業界では、完全なるリサイクルが必要だという議論になるだろうし、3番目に排出量の多いセメント業界では、CO2を吸着するセメントでカーボンニュートラルに近づけるという取り組みが発表されている。いずれも技術的にもコスト的にも大変な打ち手であり、各産業の厳しい状況がうかがえる。
運輸分野は、ガソリン車をすべてEVやFCVにすることが求められるだろう。電力側でのカーボンニュートラルが実現しているなら、走行時のカーボンニュートラルは達成できることになる。しかしながら、EVの製造時に出てくる炭素排出についてはまた別問題。家庭分野もオール電化。石油会社やガス会社にとっては前代未聞の深刻さだ。
「森林吸収源」への期待と木材需要の拡大
このように、個別対策を少し掘り下げただけでも、今までの経済活動を根底から見直す対策が必要になることがわかる。しかも、全分野でどんなに頑張っても、恐らく炭素排出量をゼロにすることはできない。だからこそ、(カーボンゼロではなく)カーボンニュートラルという言葉に意味が出てくる。ここで注目したいのが「吸収源」という考え方だ。
吸収源確保には、森林吸収対策、土壌改良による吸収強化、先ほど述べたセメント吸着などさまざまなやり方がある。ここでも量的な意味から考えると、圧倒的に森林吸収対策が重要である。木は成長するときに光合成をすることで、CO2を吸って有機物である木として炭素を貯め込んでくれるという、極めて優秀な吸収源なのだ。
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