Foxconn製EVがi-Phoneのように普及しない理由 ホンハイEV発表で見えた「台湾EV戦略」の是非

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内訳は、台湾各地での実証試験、研究開発拠点の整備、そしてユーザーに対するEV購入補助金などだ。目標として、EV生産のエコシステムを台湾国内で確立させ、2016年に年間6万台のEV生産を掲げていた。

具体的には、リチウムイオン2次電池等の材料、電池モジュールやモーターなどの部品、モーターや電池の制御部品、そしてシステム統合制御の技術を基盤として、4輪車メーカーの「裕隆(ユーロン)」や2輪車メーカーの「光陽」「三陽」などが最終組み立てを行うという流れだ。

台湾で4輪EVの先駆けとなったのは、ユーロンのミニバンEV「Luxgen7 EV」だった。搭載する電池は、テスラの初期モデル「ロードスター」や「モデルS」等でも採用した直径18mm×長さ65mmの円筒型18650を、モジュール別として数千本単位で搭載する仕組みだ。

テスラ「モデルS」(写真:Tesra)

なぜそうした技術を採用したかといえば、創業当時のテスラにEV基礎技術を供与してきた、アメリカ・カリフォルニア州のACプロパルジョン社に、ユーロンが「Luxgen 7 EV」の開発を依頼したからだ。

筆者は当時、ACプロパルジョン社でテスラ向け、ユーロン向け、さらにBMWの「MINI EV」向けの技術について詳しい説明を受けている。

また、テスラが使用するモーターについても、台湾経済部が橋渡し役となり、台中の富田電機(FUKUTA)が生産者となったという経緯がある。

そのとき、同社創業者の張金鋒氏から「テスラは各社を巡ってウチに辿りついたそうだ。そもそも我々は工業用モーター製造しか経験がなく、数え切れないほど多くの失敗を繰り返してやっとテスラ向けモーターの量産に辿りついた」という開発の苦労話を聞いた。

資金力とグローバルでの販売力

2010年代半ばを過ぎて、テスラ「モデルS」のアメリカでの最終組立工場の稼働が安定したことで、富田電機など台湾のテスラ向け製品事業はようやく軌道に乗る。

一方で、台湾EV政策全体で見ると、ユーロンにしても筆者が現地取材した2輪メーカー各社にしても、EV事業が成功したとは言いがたい。4輪車/2輪車メーカーとしての資金力が限定的であり、また台湾以外での販売力が弱かったことが主な原因だと思う。

筆者が2010年代に台湾の工業技術研究院や車両研究測試験中心(ARTC)など、行政関係機関を含めたさまざまな取材をする中で、各方面から「台湾EV飛躍のカギは、やはりホンハイだろう」という声をたびたび聞いてきた。

台湾を代表する電機・IT関連事業者のホンハイのEV本格参入が、台湾EVが世界に向けて躍進するための“唯一の方法である”との見方が当時から多かったのだ。

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