Foxconn製EVがi-Phoneのように普及しない理由 ホンハイEV発表で見えた「台湾EV戦略」の是非

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今回、ホンハイEVが世に出たことで、台湾EVはアップル製品にように一気に世界へと広まっていくのだろうか。

筆者の見立てでは、EV市場はすでにグローバルでの競争環境が厳しく、ホンハイを含む台湾EVの“独り勝ち”という図式を描くのは難しい。

理由はいくつかあるが、まずはEV普及のキモとなる電池生産で、中国のCATLがEV生産の絶対量の多い中国市場で圧倒的なシェアを持つことがあるし、ヨーロッパでは欧州委員会(EC)が強く推進する欧州グリーンディール政策のもと、台湾とは直接関係のない電池メーカー各社が、ヨーロッパ域内で大規模工場の建設を急いでいることもある。

また、ホンハイが提唱する、ハードウェアとしてのEVプラットフォームや、ソフトウェアファースト(優先)の考え方にもとづく1000人規模の研究開発センターを作るという考え方も、自動車産業界ではすでに“当たり前のこと”になっている。

「HHTD21」では「Software-Defined」も掲げられた(写真:鴻海)

プラットフォームとしては、メルセデス・ベンツ、GM/ホンダ、ルノー・日産・三菱アライアンス、そしてトヨタ連合などが、それぞれ独自路線で量産化の段階に入っている。

ソフトウェアという観点では、ドイツのボッシュやコンチネンタルといった自動車部品大手以外に、アメリカのインテルやエヌビディアなど、画像認識をベースとした自動運転技術領域で、半導体関連メーカーが大手自動車メーカーに対する影響力を強化している状況だ。

顧客サービス構築が成功のカギになる

こうしたグローバルでの厳しい競争環境の中でホンハイは、生産台数は少なくてもブランド力が強い中小自動車メーカー等との連携を最優先していく戦略ではないだろうか。中小自動車メーカーにとっては、資金面や人材確保の面から、自社でEVプラットフォームや大規模なソフトウエア開発を行うことが難しいからだ。

さらに、ホンハイEVを中核とする台湾EVがグローバルで勝ち抜いていくために大事なことは、EVと顧客サービスを連携させる、サービスエコシステムの構築となると考える。

i-Phoneなどアップル製品については、「iTunes Store」などアップル本社主導の顧客管理サービスシステムを構築しているが、ホンハイが独自の顧客サービスを自動車メーカーとともに、どのように事業化するのか。

ホンハイのEV市場参入が明らかになったいま、“100年に1度の自動車産業大変革期”の勝負処は、一気に顧客サービス領域にシフトしていくように感じる。

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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