「ターゲットはシニアではなくママ」で大ヒット 発想の転換で売上が伸びた電動アシスト自転車

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もちろん化粧品の会社など、業種によっては逆に女性がほとんどという会社もあります。それはそれで、男性を入れたほうがよいのですが、現状でまだ男性中心の会社が大半であるなかでは、特異な存在にはなれるかもしれません。

今、商品企画を考えるなかで、女性や高齢者など、これまでは組織の主流ではなかった「異質な人」「価値観の違う人」の視点や考え方がとくに大切なのは、レッドオーシャンから抜け出して儲けるために、それらが必要だからです。同質的な人といくらディスカッションをしても、今の時代は何も生まれません。

むしろ価値観が違う人から「えっ……それ、どういうことですか?」と質問されることで、「なるほど、こう言っても伝わらないのか」「ちょっと独りよがりな考えになってるかな」と気付くことができるのです。

電動アシスト自転車の想定外なユーザー

二輪車や水上オートバイ、船外機などのメーカーとして知られるヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が、世界初の電動アシスト自転車を市販したのは、1993年のこと。当初は主に足腰の弱いシニア世代に向けて開発されたものでした。

今から考えると画期的な製品だったのですが、思惑に反してさっぱり売れない。ただ、不人気だった理由ははっきりしています。高齢者は「シニア向け」とカテゴライズされた商品を買いたくないからです。

とはいえ、少ないながらも売れているので、状況を聞こうと営業部員が販売店にヒアリングに行く。すると、シニア向け製品のはずなのに、「もっとパワーのある製品がほしい」と言われることが多かったといいます。よくよく聞いていくと、そうした要望を口にしているのは、実は高齢者ではなく、後ろに子ども用のシートを取り付けて保育園の送迎に使っているママさんたちだとのこと。

そうした状況を理解して、ママさん向けに「子ども乗せ」の方向に大きく路線変更したのは、発売からある程度、時間が経ってからだそうです。法改正により、2009年に前と後ろに幼児を乗せる「3人乗り自転車」の利用が解禁されてからは、さらに普及が加速しました。

ママ向けの保育園の送迎用ですから、タイヤを小さめにして、最初からチャイルドシートをつけて売ることにすると、どんどん売れるようになった。そうすると、パナソニックの自転車部門(当時は「ナショナル」ブランド)が参入してきます。

もともと松下幸之助さんが自転車店で丁稚として働いていたこともあって、自転車のメーカーとしても歴史があり、しかも電動アシスト自転車は電器メーカーである本体ともシナジーのある分野。販売力があり、家電などのプロモーションで女性へのアプローチの蓄積もあってか、パナソニックはあっという間にシェア1位になったのです。

ヤマハはブリヂストンに電動アシスト自転車のフレームをつくってもらっていて、ブリヂストンが参入してきてからは電動駆動ユニットを供与するという相互OEM供給の関係になっていますが、国内シェアではパナソニックがダントツの1位。2位にヤマハ、3位にブリヂストンという順位が続いていました。

ブリヂストンは3番手として、どう差別化を図れば、シェアを広げることができるのかを考えます。

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