日本は、経済成長(正確には短期的なGDPの増大)において、この10年、欧米諸国に見劣りしている。そこで「GDP増加を目指して、分厚い中間層を作る」という宣言を出したのが、岸田政権の「新しい」資本主義である。日本は資本主義の持続性よりも、そもそも資本主義がきちんと成り立っていない。利益追求、リスクテイクが足りない。そして需要が足りない。だから、起業家と分厚い中間層が必要だ。日本の経済論壇やメディアは、これを大前提として議論をしている。
「新しく」もないただの資本主義
しかし、こちらは、「新しく」もないただの資本主義である。起業家とは何か。利益を独占するために、既存の利益独占者を倒そうと立ち上がる人々である。しかし、彼らは成功すれば新しい独占者になる。大企業からプラットフォーマーへと、さらに独占力を強めるだけである。資本主義はそのまま拡大するだけであり、格差はさらに拡大する。
一方、中間層を増やすというのは、これらの独占者、大企業にせよプラットフォーマーにせよ、それらを利用できる消費者と労働者を増やすということにすぎない。低所得者が多いと、独占者は彼らの消費から利益を得ることができない。だから彼らにも、必需品以外の嗜好品を買わせてマーケットを拡大しよう。スマホを世の中の全員に持たせよう。そして、消費を把握し、さらに贅沢を覚えさせ、ゲームをやらせ、消費を増やさせよう。
これは21世紀に始まった、資本主義は、BOPビジネス、ボトムオブピラミッドまたはベースオブピラミッドという概念をもちろん利用した(作成した)。要は、動員である。資本主義とはバブルであり、バブルも資本主義も、人々と物とそして社会を流動化して、動員するシステムである。分厚い中間層というのは、動員する消費者と労働者を増やすためのものである。すなわち、これらは、ごく普通の資本主義である。これまでの路線を強化するだけのことである。あるいは高成長期の動員メカニズムの復活を目指すことである。世界は、アフリカ、貧困層という最後のフロンティアまでを食い尽くしてしまったため、最後の手段、「新しい」資本主義という名の新しいESGバブルを作り、日本は、古きよき時代の普通のバブル、普通の資本主義の再興を目指しているというのが、今なのだ。
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