30歳でひきこもり脱却の男性が抱える生きづらさ 品出し早朝バイトは「もっと早くやっておけば」
亮介さんは、小さいときからおとなしく、「暗い」「何を考えているかわからない」と言われる子だった。ときどき、人の話を理解できないことがあり、自分の気持ちを話すのも苦手。何か少しでも「失敗した」と思うと、頭が真っ白になってしまう。唯一、緊張せず話せる相手は母親だけで、「大丈夫、亮介は普通だよ」という言葉が心の支えだったという。
高校1年のときから不登校ぎみになり、家にひきこもることが多くなった。その後専門学校に入学したが、やはり途中で通えなくなった。だんだんと友人に会うこともなくなり、外に出かけることも少なくなった。何度かアルバイトをしたこともあるが、突然パニックになったり、言われたことがうまくできなかったりして、どれも続かなかったという。
とにかく仕事がしたい
30歳になるのを機に、「いよいよ何とかしなくては」と焦るようになった。ネットで、就労の困難な若者を支援している団体を探し、勇気を出して自ら連絡をした。
亮介さんが頼ったのは、「一般社団法人福岡わかもの就労支援プロジェクト」だ。「コーチ」と呼ばれる支援者との面談や、就労訓練を経て、2カ月半後に就職活動を開始。面接では今までひきこもっていたことも正直に話し、「とにかく仕事がしたい」と伝えた。ほどなく、今の職場にアルバイトとして採用になった。
亮介さんが担当する品出しは、基本的に開店前の仕事なので、接客をすることはほとんどない。コミュニケーションをとるのは職場の人たちだけだ。人との会話に自信のない亮介さんだが、幸い、理解のある優しい上司や同僚に恵まれて、今のところはなんとかやれているという。
「職場は60代くらいの人が多いので、安心感があります。自分から話しかけることはできないけれど、ときどき、『言い方がキツイ人もいるけど、気にしないで』『早く就職が決まるといいね』などと話しかけてくれるのがうれしいです」(亮介さん)
初めて給料をもらった日は、家族にプレゼントを買って帰った。父親には茶碗、母親には箸、姉には本の栞を。普段は寡黙な父親が、「もったいなくて使えないね」と言ってほほ笑んでくれた。