30歳でひきこもり脱却の男性が抱える生きづらさ 品出し早朝バイトは「もっと早くやっておけば」

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社会生活を送るうえで、不安や悩みは相変わらずある。けれど、亮介さんは少しずつ確実に前進しているようだ。取材でも、回を重ねるごとに表情が豊かになり、会話がスムーズになってきたのを感じた。

何よりも、亮介さんにはいくつもの「居場所」がある。

猫も毎朝起こしに来てくれる

亮介さんのたった1つの趣味は、18歳のときに始めたボクシングだ。週1回汗を流すのは気分転換になるという。途中休んだ時期もあったが、同じジムに通い続けて10年以上。今でもジムのスタッフや生徒たちの会話には入っていけないし、話しかけられてもうまく返すことができない。だから、あいさつ以外に言葉を交わすことはほとんどない。しかし、たとえ会話がなくても、ボクシングジムに行けば一緒に汗を流せる仲間がいることは大きい。

何よりいつも穏やかに見守ってくれる家族がいる。毎日仕事が終わるころには、母から「おつかれさま」のLINEスタンプが届く。家に帰ると、食卓にはおにぎりが置いてある。シャワーを浴びてからおにぎりを食べるのは、ホッとするひとときだ。

最近飼い始めた猫も、心を癒してくれる存在だ。あるとき道路の真ん中に倒れているのを、父が見つけて病院に連れていったのがきっかけだ。猫は毎朝3時ちょうどに部屋にやってきて、亮介さんを起こしてくれるのだという。

職場の人たちも、毎朝亮介さんを待っている。「一般社団法人福岡わかもの就労支援プロジェクト」での定期的な面談は終了したけれど、「困ったことがあったら、いつでも来なさい」と言ってくれるコーチとはラインでつながっている。

私も亮介さんの居場所の1つになりたくて、ライン友達になってもらった。亮介さんから初めての返信には、こんな言葉があった。

「朝の自転車通勤中に見上げる夜空の星は、いつもきれいです」

(取材・文/臼井美伸)

臼井美伸(うすい・みのぶ)/1965年長崎県佐世保市出身、鳥栖市在住。出版社にて生活情報誌の編集を経験したのち、独立。実用書の編集や執筆を手掛けるかたわら、ライフワークとして、家族関係や女性の生き方についての取材を続けている。ペンギン企画室代表(http://40s-style-magazine.com)。『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)
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