住む場所の変化が「シン・街道資本主義」を生む訳 「街」のメディア化が導く「鉄道資本主義」の終焉

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様相が変化するのは21世紀に入ってから。容積率の緩和や工場・倉庫跡地などの再開発で、都心部で積極的にマンション開発が進んだのです。超高層マンションが次々と登場したのもこの頃からでした。「郊外」から「都心」に人口が移動しはじめた、というニュースが目立つようになりました。さらに、日本の人口減少と高齢化が郊外から都心への人々の動きを加速した、ともいわれるようになりました。

住宅選びのプライオリティーが変わった

潮目が変わったのは、コロナ禍です。ふたたび首都圏郊外の住宅地が注目されるようになったのです。

2021年4月の「住まいの情報館」の調べによれば、首都圏の住宅地の地価を比較してみると、上昇率ベスト10から東京23区が消え、トップ10は、千葉県君津市を筆頭に、横浜市西区、木更津市、埼玉県戸田市、袖ヶ浦市、千葉市中央区、相模原市緑区、川口市、蕨市、千葉市緑区とすべて首都圏郊外となりました。そのうち、7自治体が16号線の通る街です。

なぜか。主に3つの理由が考えられます。コロナ禍でリモートワークやリモートスタディーが一気に普及したこと。そしてリモートワークやリモートスタディーには、広々とした家が必要なこと。さらに、リモートワークが標準化すると、住宅選びのプライオリティーが「通勤時間」から「自分の趣味や嗜好や子供の教育環境」に置き換わること、です。

実はコロナ禍が日本を襲う前から、子育て世代に絞っていえば、すでに2010年代、首都圏では都心から16号線エリアを中心とする郊外へと人の移動が起きていました。前述の「住まいの情報館」の調べによれば、2018年時点で首都圏における人口移動は、全世代で見ると「郊外から都心23区へ」の流れが顕著ですが、0~14歳の世代に限ると「23区から国道16号線エリアの郊外へ」移動していることがはっきりします。

そして、コロナ禍をきっかけに、子育て世代のみならず、より多様な世帯が、いま郊外へ再び住まいを移しつつあるわけです。

それが可能になったのは、まさにインターネットを前提としたさまざまなリモートワークをサポートするビデオ会議システムが、すでに複数ローンチしていたからです。従来から利用されていたスカイプに加え、マイクロソフトのチームスや、グーグルのミーツ、なかでもZoomは、最も多くの人が利用するネットサービスのひとつになりました。

通勤や通学を制限された状態で仕事や勉強をしなければならない。そんなパラダイムシフトが訪れたとき、すでにあったけれども日本においてはあまり利用されていなかったビデオ会議システムは、日本の仕事や学校教育の現場を一気に「メディア化」しました。

私の場合、勤務先の東京工業大学では、2020年春以来1年半以上大半の授業をZoomで行っています。私の場合、200人クラスも、30人クラスも、少人数のゼミも、すべてZoomです。テレビを見れば、多くのテレビ番組が、ビデオ会議サービスを使って、ゲストや解説者をスタジオに招いています。

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