宇野郁夫・日本生命保険会長--保険経営に必要なのは長期的視点と中庸の精神
だから、今こそ「世の中のリーダーたるものは精神的貴族であれ」。オルテガの言葉ですが、会場に集まった全員に、より高邁な志を持ってほしいと話しました。
--保険業の果たす役割についてはどうですか。ここ十数年、世界的にも相互会社の多くが株式会社へ転換、合併再編が起こり、保険会社の規模も大きくなってきました。
今回の金融危機で、大きな転換の時代が来ていることが明らかになったと思います。大量生産・大量消費で成長し続けることはありえない。永遠の成長というのもありえない。そこで「量」から「質」への転換が起きている。そして、安全な生活、安心できる人生というものが求められる時代に移ってきているのではないでしょうか。
保険会社の合併は「成長」ではない
大きな転換期の中で、保険業は社会の基本的なインフラとして大きな役割を担わなければならない。死亡保障、年金、医療、介護など生活保障における安心は、保険業が国家制度の補完をするという意味でも必要であり、われわれはその使命感を持たなければならないと思います。将来、予想を超える大災害の発生、新たな疾病、パンデミックなど新たな課題にも対応しなければなりません。
今年1月に、アメリカのニューヨークライフ(生命保険相互会社)のスタンバーグ元会長(現最高顧問)に10年ぶりにお会いしました。そのとき、彼は私を抱きしめて「ミスター宇野、お互いに勝ってよかった」と、「相互会社を守り切った」と。
この会社は創業150年ほどになりますが、彼は(生命保険のような)超長期の契約を守るためには、従業員も長期的な視点で仕事をしてもらわなければならない。短期的に業績を上げても何の役にも立たない。創業以来、従業員は一人もレイオフしたことはないと、言い切っていました。