米中対立で日本が生き残るための「西太平洋連合」 2大国にものを言える柔らかな国家連合の構想

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「米中対立」の中で「西太平洋」地域と「日本」のゆくえは(写真:mirai4192 / PIXTA)
台湾が設定した防空識別圏に進入する中国軍機の数が急増。米英協力によるオーストラリアの原子力潜水艦建造計画。米中対立の激化に伴い、「西太平洋」地域をめぐる安全保障情勢が喧しくなってきている。
このような状況下で上梓された『西太平洋連合のすすめ 日本の「新しい地政学」』(北岡伸一編)では、「米中対立」時代に日本が生き残る道として、日本、東南アジア諸国、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼国などによる「柔らかな民主主義の連合体」として「西太平洋連合」構想を提示している。
同書が対象とする「西太平洋地域」に、今どのような課題があるのか。2011年の東日本大震災時に、日米両政府・軍の連携調整にあたった磯部晃一元陸将が解説する。

アフガンからインド太平洋への重心移動

8月末、アフガニスタンからのアメリカ軍撤退は、バイデン政権が戦略の重心をインド太平洋に移したことを鮮明にする印象を与えた。その後のインド太平洋における地域内の合従連衡の動きを挙げてみると次のようになる。

9月 英空母クイーン・エリザベスなど英米蘭による空母打撃群が西太平洋に進出
9月15日 米英豪が3カ国安全保障協力(AUKUS)を創設
 ※AUKUSは豪州のA、英国のUK、アメリカのUSをつなげたもの。
9月16日 中国が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加入を申請
9月17日 イランが上海協力機構(SCO)に加盟手続きを開始
 ※SCOは2001年に中露と中央アジア4国によって発足、現在インドなども加盟。
9月22日 台湾がTPPへの加入を申請
9月25日 クワッド(日米豪印4国による協力枠組み)が初の対面首脳会談を開催

クワッド首脳会談やAUKUSの創設、さらには欧州の海軍艦艇のインド太平洋派遣は、自由や民主主義を重視する国家による地域へのコミットメント強化の表れと見える。

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一方で、中露を筆頭にした権威主義的な国家群も合従連衡の動きを加速させており、自由民主主義国家群と権威主義国家群の2つの勢力が競い合っているようにも見える。しかし、地域連携の内実は実に複雑で、参加国各々の国益が入り混じり、緩やかに連携していると捉えるのが適切である。

インド太平洋における地域連携枠組みとしては、古くは1967年に発足した東南アジア諸国連合(ASEAN)や1989年発足のアジア太平洋経済協力会議(APEC)など多くがすでに存在する。その地域連携構想の1つに「西太平洋連合」(WPU)が挙げられる。WPUについては最後に触れることとする。

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