まず、最近注目を集めるクワッドとはそもそも何か、次にその理念とも言える「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)とはどのような経緯で生まれたのか、そして、域外国である英国が加わったAUKUSとはどのような性格を持つのか分析を試みたい。
日米豪印の「クワッド」
クワッドは、日米豪印による緩やかな協力枠組みである。すでに首脳会談も開催されているが、クワッド事務局はいまだ存在しない。クワッドは、2006年に当時の安倍首相が提唱し高官協議が開始された。しかし、ケビン・ラッド豪首相が2008年に不参加を表明し、一旦中断されていた。その後、2010年代半ば頃から日豪印の3カ国の次官級協議が再開され、それにアメリカが加わることによりクワッドが再び開催されてきた。
2020年10月、コロナ禍にもかかわらず、日米豪印は東京で対面によるクワッド外相会談を開催した。次いで首脳会談については、オンラインで今年3月に、対面で9月に開催した。そもそも、クワッドに対する4カ国の思いは、まさに「四者四様」である。
日本はクワッドを日米同盟を補完するものとしてとらえ、中国の向こう側にいるインドや南に位置する豪州も仲間に入れて連携しようという狙いがある。
アメリカは、日豪の同盟国に加えてインドがクワッドに参加することにより自らのインド太平洋戦略を有利に展開しようと考えている。
豪州は、その地理的位置から太平洋とインド洋を一体としてとらえていた。豪州にとって中国は最大の貿易相手国であるものの、中国による貿易面でのいやがらせに直面して対中姿勢を変化させている。クワッドにより、豪州はインド洋の盟主インドと太平洋の強固な日米同盟との連携を深めたい意向がある。
インドは、日豪両国がアメリカによる安全保障の庇護を受けているのに対して、インドはそれを裨益していない。それでもインドがクワッドに参加する理由は、非同盟の原則を守りつつも、インド洋や周辺国への中国の影響力拡大、さらには中印国境の緊張に対するヘッジをかけているからである。
このように、4カ国とも対中警戒という点では一致しているが、微妙なバランスの上にクワッドは成り立っている。
9月の首脳会談では、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に改めてコミットし、ルールに基づく秩序を推進することで合意した。具体的にパンデミック、気候変動、サイバーへの対応、安全で透明性のある5Gの推進、強靭な供給網の構築などを共同声明でうたった。さらに、技術利用に関する共同原則も打ち出した。このように、クワッドによる協力・連携の具体像が徐々に明らかになってきた。
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