米中対立で日本が生き残るための「西太平洋連合」 2大国にものを言える柔らかな国家連合の構想

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クワッドがパンデミックや気候変動への対応、サイバーや技術協力など幅広い分野での日米豪印の協力を追求する枠組みと位置付けるならば、AUKUSは軍事的な安全保障に焦点を当てた枠組みである。英国という域外国も招き入れインド太平洋において中国の台頭を許さないというアメリカの強い意志を明確にしている。英国としても、EU離脱後の英国の戦略的方向性を今年3月、「統合レビュー」として打ち出した。その延長線上にAUKUSはあると見るべきである。

「西太平洋連合」構想

さて、西太平洋連合(以下、WPU)とはどういうものなのか。

成田からシドニー行きの飛行機に乗り込むと眼下に見えてくる西太平洋の海は明るく、きらめいて、美しい。しかし、その平和な光景も80年前は日本軍と連合軍が死闘を演じた戦跡の連続でもある。硫黄島~グアム・テニアン~トラック諸島~パプアニューギニア~ラバウル~珊瑚海、そして豪州大陸である。WPUはまさにこれらの地域と連携しようという構想である。

こうした発想は古くから存在する。戦前の大東亜共栄圏もその1つに挙げられよう。戦後では、梅棹忠夫が1975年頃に「西太平洋同経度国家連合」を提唱した。日本は西にある大陸ばかりに関心を払ってきたが、西ではなく南にある海に関心を持つべきであると提唱した。

特に、梅棹は、南北のアメリカ大陸、そして、北の欧州と南のアフリカが深い関係で結ばれているように、南北の同経度の国家の連結の必要性を指摘している。

そして、現在、WPUを提唱しているのが北岡伸一である。その1つの特色は、米中両大国をWPUに加えていない点である。

この構想は、西太平洋を米中による大国間競争の主戦場にしてはならないという理念に基づく緩やかな国家連合であるべきであろう。二大国にものを言える国家連合を作ろうという発想である。

そして、その要となるのは、地理的な特性から自ずと東南アジア・南シナ海になる。同地域は、北は日本から南は豪州までの同経度の中間に位置するとともに、太平洋とインド洋のちょうどつなぎ目に位置するからである。この地域は軍事的な観点からも米中がせめぎ合う戦略的要衝である。

だからこそ、軍事的緊張を高めず、航行の自由が保障され、東西南北の通商の接点として平和で繫栄する地域にすることが日本の国益にも合致するのではないだろうか。

今後、インド太平洋を巡り地域連携の動きは一層強まるであろう。日本はFOIPの理念に基づき、クワッドやTPPなどの場において主導的な役割を果たすことが期待されている。WPUについても、日本はASEANや豪州とともにリーディングネーションとして、その具体化に向けて議論を牽引できる好位置にある。

磯部 晃一 第37代東部方面総監、元陸将

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いそべ こういち / Kouichi Isobe

前ハーバード大学アジアセンター上席研究員。1980年防衛大学校(国際関係論専攻)卒、陸上自衛隊に入隊。第9飛行隊長、陸上幕僚監部防衛課長、統合幕僚監部防衛計画部長、第7師団長、統合幕僚副長などを歴任、2015年東部方面総監を最後に退官。アメリカ海兵隊大学およびアメリカ国防大学にて修士号を取得。現在、防衛省の統合幕僚学校および教育訓練研究本部の部外招聘講師として統合運用や戦略を講義。安全保障や危機管理等に関する講演やアメリカ研究機関との研究交流に従事。単著として、猪木正道特別賞受賞の『トモダチ作戦の最前線:福島原発事故に見る日米同盟連携の教訓』(彩流社、2019年)がある。

 

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