FOIPは日本自らが提唱した外交ビジョンである。FOIPはインド太平洋が目指すべき理念を表したものであり、中国に対抗しようとする発想ではない。普遍的な理念であるがゆえに強靭で域内国も賛同しやすい理念と言える。この理念を大事に育て、実現する責務が日本にはある。
AUKUSの誕生
インド太平洋の域内国がそれぞれの国益に基づいて域内の枠組みを模索する中で、域外国も含めて結成した枠組みがAUKUSである。
AUKUSの予兆は「新大西洋憲章」にある。今年6月、英国でのG7首脳会議に先立ち、バイデン大統領とジョンソン首相の米英首脳のみが会談し「新大西洋憲章」を提唱した。「新」という冠が付いているとおり、80年前の「大西洋憲章」は、日米開戦の4カ月前、ナチスが欧州大陸を席巻していた頃、ルーズベルト大統領とチャーチル首相によって表明された。それは8項目から成る大戦後の国際秩序を示す声明であった。
6月に発表された「新大西洋憲章」も同じく8項目にまとめられている。民主主義の擁護、領土保全の尊重、サイバーや気候変動への対応などを打ち出した。名指しこそ避けているが、文脈から中露を念頭に置いていることは明らかだ。
その3カ月後に、米英両国に加えて豪州が参加して成立したのがAUKUSである。一部報道では、AUKUSが仏との通常型潜水艦の契約を反故にして、新たに米英の協力のもとで豪州の原子力推進潜水艦を建造する協定である点に焦点を当てているが、実際にはそれにとどまるものではない。
バイデン大統領は、米英豪が100年以上にわたり、第1次・第2次世界大戦、朝鮮戦争、そしてテロとの戦いでともに戦ってきた揺るぎない同盟としての実績を強調したうえで、現在においても米英豪軍隊は最も強力で近代的な軍隊であり、今後、サイバー、人工知能(AI)、量子技術、そして海中ドメインにおいても関係を強化すると表明した。したがって、AUKUSは軍事同盟の色彩が濃い。
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