最後はほとんど怒らせてしまった。
しかしこの不毛なやりとりを通じて、私はハッとしたのである。
このやりとりを読んだ方は、さぞかし私がイヤミな人間だと思われたことであろう。私とて、今改めて再現してみるとまったくそう思う。まさしく上から目線。神のごとく超越した立場から、迷える民に説教するの図。
しかしね、私そんなつもりはこれっぽっちもなくて、心からの本心として彼女に精一杯のアドバイスをしていたのである。食べたいなら、食べる。食べたくないなら、食べない。それだけの話じゃないかと。食べたくないのに、食べる……って、どう考えても変じゃないかと。
でも彼女が怒ったとおり、この変なことがやめられないのがダイエッターなんである。お腹がいっぱいなのに、つまりは栄養としてはまったく食べる必要がないし、むしろ食べたらお腹が重くなったり気分が悪くなったりもする。それは十分わかっちゃいるのに、食べたい気持ちが抑えられない。
つまりは体じゃなくて「アタマ」とか「ココロ」が食べたがっているのだ。体はもう十分、と言っているのに、アタマとココロがまだまだ十分じゃない! と言っているのである。
「食べたい」でも「太りたくない」というジレンマ
で、私。繰り返しますが、そのような悩みからは完全に無縁な場所にいるのであります。だからこそ彼女と話がかみ合わないのだ。
うーん、どう言ったらわかってもらえるのか……と考えていて、ふと気づいた。
私とて、ついこの間までNちゃんとまったく同じではなかったか。
ちなみに私、外見的には痩せております。そして人生を通して今の体重をキープしている。つまりは端から見れば、「太っちゃった」という悩みとは生涯無縁に過ごしてきたように見えるかもしれない。現に、私が他人様から頂戴するほぼ唯一の褒め言葉は「スリムでいいねー」というものである。
でも実際は、悩みと無縁どころか、悩みまくりの人生であった。
痩せていることは、美人でもなんでもない私の貴重なアイデンティティーであり、実際にも「スリムでいいね」としか褒められないとなると、ますます太るわけにはいかなくなった。というわけで、スリムな体重をキープするために、生まれてこのかたずっとずっと気を遣ってきた。
まあ学生の頃はスポーツもしていたし代謝も活発だったのでそれほど苦労はしなかったが、会社に入ってからは、定期的に体脂肪率を測定し、毎日エアロバイクを漕いだり筋トレをしたりして不断の努力を続けてきた。
もちろん食事をするときもつねにカロリーを考えて、「もうちょっと食べたい!」と思う気持ちを必死に押さえつけてきた。つまりはNちゃん同様、「食べたい」でも「太りたくない」という永遠のジレンマから心が解き放たれる日は1日だってなかったのだ。
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